「旅立ちの島唄 〜十五の春〜」50点(100点満点中)
2013年5月18日(土)〜 シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー 2013年4月27日(土)〜 沖縄・桜坂劇場にて先行公開
監督・脚本:吉田康弘 特別協賛・撮影支援:南大東村 企画・制作 アミューズ 映像製作部/沖縄映像センター/デジタル・フロンティア キャスト:三吉彩花 大竹しのぶ 小林薫

父親、娘、どちらに感情移入してみるか

この映画の舞台となる南大東島というのは、沖縄からさらに400kmも東にある離島。島に高校がないから、この島の若者は中学校を卒業すると必然的に島を出る。ある意味、ドラマチックな場所である。

中学二年生の優奈(三吉彩花)はさとうきび農家の父(小林薫)のもと暮らしている。高校生の姉とともに母親が島を出てから家庭内の空気は変わった。それでも民謡グループのリーダーとして、あるいは島人として生きることを決めた同級生と恋をするなど地域と密接にかかわりながら、1年後の進路について優奈は悩み続ける。

舞台となる島はなんともすごい場所で、外洋に面しているからアオリイカのような高級食材があたりまえのようにポンポン釣れるし、沖縄県とはいっても、住民はもともと小笠原からの開拓民だから文化のベースは本土のそれ。中盤で出てくる相撲大会の場面には、そういう背景があるわけだ。

と思うと、ある特別な夜に父親が湯船にお湯を張るシーンが重要なものとして出てきたりもする。これなどは沖縄の住民ならぴんとくるだろう。かの地は賃貸住宅などは湯船すらない場合も珍しくない気候であり、だからこそこのシーンにおける父親の台詞は、彼が娘をよく観察しており、今夜は癒しが必要だときづいたことを示している。見守るすなわち親の愛、だ。それを知っておけば、入浴シーンにおける娘の表情の意味もより深く理解できるだろう。

ほかにも、外洋に洗われているため船をつけられる港が作れない特徴がこの島にはあり、荷物も人も、ときには船ごとクレーンで持ち上げて島に上げたりする。そんな珍しい映像も、ひとつの見所となっている。

ドラマ部分については、観客の年齢によってどちらに感情移入するかが分かれる。とはいえ、演出が淡々としていて平板だし、せっかくの素っ頓狂な環境を生かしきれない、あたりさわりのない展開なので、若者には退屈か。

もしあなたがこの映画を見る機会があったなら、最後のコンサートで娘を見つめる小林薫の姿に注目してほしい。後日、本人に会う機会があったとき、どうすればあんなに胸を打つ演技ができるのか直接聞いてみたところ、「そういわれても二度とできないかもしれないなぁ」と、思わず椅子から落ちそうになるとぼけた返事が返ってきた。

そんなイカしたユーモアを持つ名優の、地味ながらキラリと光るパフォーマンスを楽しめるのも、やはり中年以上の落ち着いた観客向けか。



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