「HK/変態仮面」70点(100点満点中)
2013年日本/105分/ティ・ジョイ 2013/4/6 (土)新宿バルト9 にて先行公開、4 /13 (土)全国ロードショー!
監督・脚本:福田雄一 原作:あんど慶周 アクションコーディネート:田渕景也 出演:鈴木亮平 清水富美加 安田顕 片瀬那奈

日本映画史上最高の変態映画

あんど慶周原作の「究極!!変態仮面」が実写化されると聞いて、色めきだったあなたは間違いなくオッサンである。

もちろん私は違うわけだが、いち早く本作を鑑賞してその感動をまわりの(気持ちだけは)同世代の女子たちに伝えたところ、誰一人原作のことを知らなかったのでその件に気付いた次第である。パンティーをかぶって強くなる男の話を嬉々として解説する姿に、彼女たちが笑顔のまま、しかし徐々に引き始める様子をみたときのせつない気持ちが、はたしてあなたにわかるだろうか。

高校拳法部に所属する色丞狂介(鈴木亮平)は、父親譲りの正義感あふれる若者だったが、いかんせん実力が伴わず、ダメダメな日々を過ごしていた。一目ぼれした転校生の姫野愛子(清水富美加)にもうまくアプローチできず悶々としていたが、銀行強盗の人質にされた彼女を助けようと無謀な突入をした時、彼のその後の人生を変える出来事が起きる。

なぜ変態仮面と呼ばれるのか。それはビジュアルを見れば一目でわかる。パンティで顔面を隠し、下は全裸にブリーフ、網タイツだけ。どこからみてもド変態である。

だが彼は変態ゆえにそのパンティーにパワーを引き出され、超人的な強さを発揮する。そして悪を倒してゆくのである。見た目は変態だが、間違いなくヒーローだ。

この設定は今思うと非常にいじりやすく、映画向きであった。本作も前半はまさに大成功。マーベルコミックス映画をパロディにしたオープニングから大爆笑の連続で、原作読者にしたら間違いなく今年一番笑える映画となっている。連載第一回からリアルタイムで読んでいた私としても、文句のない出だしであった。

このままいけばとんでもない傑作となるところだったが、笑いの勢いがすさまじかったがためにこのハイテンションをどう維持するか、あるいは別の方向にもっていくのか。その演出の引き出しを作り手がどこまで持っているかが不安になった。

そして残念ながらそれは中盤以降で的中する。変態仮面が別の変態と戦うストーリーにしたために、相対的にこのキャラクターのシュール感と魅力が薄れてしまい、なんでもありの変態合戦に落ちぶれてしまったわけだ。

原作のストーリーはどうあれ、映画的には変態仮面以外の変態を出す必要はなかったと私は思う。ごく普通の日本社会に、こういうヒーローが現れたらどうなるか。その一点突破で十分に90分間の脚本は書けただろうし、そのほうがよほど面白くなったはずだ。なにしろ2013年のこの国には、たくさんの問題がある。その閉塞感に細マッチョな変態ヒーローが風穴を開けてくれたならば、どれほど痛快だっただろう。つくづく残念である。

実際前半はその通りにやっていたからあれほど笑えたのだ。変態仮面がこの現代日本に現れて、股間を押し付けてこわもてのワルどもを失神させるから痛快なのであって、変態ワールドで変態合戦をやったらもう普通の人はついていけない。

俺は変態なのか……いやそんなのは嫌だと主人公が悩み葛藤する姿はスパイダーマンをはじめとするアメコミヒーローそのもの。悩む内容があまりにくだらないので笑いを誘うが、変態というものは見方によっては「"普通"を外れたもの」すべてのメタファーにもなりうる。

この日本で普通と違うことする、あるいはまともな社会人としてのレールを外れるというのは大変な孤独感と劣等感を味わうものだが、その感情移入先として変態仮面こと狂介が立ち上がる姿を描けば、「見た目は変態ギャグ映画、だが中身は骨太」の高度なエンターテイメントとなれただろう。そこまでストーリーを改変しても、オッサンとなった原作ファンならば、いやむしろ中年だからこそ十分に満足できる要素をきっと盛り込めたはずである。

主演:鈴木亮平は、さすが小栗旬(本作の隠れた制作ブレーンであり、おそらく日本で一番の変態仮面理解者)から直々の指名を受けただけあり、見事な再現ぶり。漫画から飛び出してきたような、まさにどこからみても変態仮面。変態を演じさせたらおそらく彼の右に出る者はいない。完璧というほかない役作りである。

よく鍛えられたナチュラルな筋肉美、可動域の広い関節としなやかな表層筋を生かした変態ポーズ、変身後の渋いナレーション、どこからみても、変態仮面を演じるために生まれてきたような男である。

ヒロインを演じる清水富美加も、このパーフェクトアクトを真正面から受け止める圧巻の開き直り。並の女優なら、笑って10回はNGを出しそうなシーンを平然とこなしている。彼らのおかげで本作はとてもよくなった。

「おっぱいバレー」公開時における私の指摘をよく研究したか、タイトルにHKと入れることでチケット購入時の恥辱プレイを回避する親切設計。「エイチケーを二枚ください」といえば、カップルでの鑑賞時もまったく問題ない。まさに360度隙なし、鉄壁の布陣といえるだろう。おすすめだ。



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