「ジャンゴ 繋がれざる者」55点(100点満点中)
Django Unchained 2013年3月1日(金)より丸の内ピカデリー他全国ロードショー! 2012年/アメリカ/カラー/165分/配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督・脚本:クエンティン・タランティーノ キャスト:レオナルド・ディカプリオ ジェイミー・フォックス クリストフ・ヴァルツ ケリー・ワシントン カート・ラッセル サミュエル・L・ジャクソン

評価は高いが停滞を感じさせる

今年のアカデミー賞はCIAイヤーだと別の記事で書いたが、「奴隷制度を扱った映画」が複数ノミネートされている点も特徴的だった。「ジャンゴ 繋がれざる者」もその一つで、異才クエンティン・タランティーノが10年間も構想を続けたマカロニ・ウェスタン(風)冒険活劇である。

南北戦争の直前、1859年のアメリカ南部。ドイツ人賞金稼ぎのキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)は、道中で奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)を半ば強引に我が物とする。当初は彼の持つターゲットの情報が目当てだったが、聡明かつ行動力にあふれたジャンゴを気に入ったシュルツは、彼をパートナーとして扱うようになる。

さて、シュルツは合理主義のドイツ出身なので、アメリカ南部の風習など屁とも思わず、当時この地で劣等人種とさげすまれていた黒人ジャンゴの才能をいち早く見抜く。一方ジャンゴは、別れた妻を何としても探し出したいとの執念を心に秘めている。二人の活躍を、タランティーノ得意の容赦ない、だけどどこかコミカルなバイオレンス描写で描く。

奴隷制度をテーマに映画を作りたいと思い続けてきたタランティーノ監督だが、彼が作るのだから退屈な歴史ものになるはずはなく、結果としてはぶっとんだアクション作品となった。ただ、上映時間が3時間近くもあるので、退屈しないかといえばそうでもない。

だいたいこの監督は(笑いという意味ではなく)受け狙いが多すぎる。タイトルのジャンゴとは、「続・荒野の用心棒」(66年、伊ほか 原題「DJANGO」)から始まる西部劇の定番キャラ名で、「ジャンゴ 灼熱の戦場」(87年、伊)はじめ、無数の作品に登場する。日本でも三池崇史監督が「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」(07年、日)で言及している。

それを皮切りに、人物名や衣装のデザインに至るまで、あちこちにいわゆるオマージュや引用がちりばめられている。一つ一つのショットやシーンに仕掛けやけれん味を演出するので、上映時間がそうした「受け狙い」で際限なく膨らむ。水で増量した安手のハムみたいなものだが、そんなジャンク風味もここまで大盛りだと辟易する。とはいえ、米国では客ウケが抜群にいいようなので、まだまだニーズはあるのだろう。

基本的に過去のタランティーノ作品、というかここ数本のそれと似たようなつくりなので、見続けている人にとっては意外性はほとんどない。残虐描写とブラックな会話ギャグ、数々の引用と、素っ頓狂なキャラクターと、サプライズなキャスティング。水戸黄門なみの様式美だが、案外タランティーノ未経験者などに見せると新鮮味を感じていいと思う。何も考えずに楽しめる娯楽性がある。

彼の映画は特殊なレンズを使ってレトロなルックを実現しているのだが、本作は西部劇ということでその手法が特にハマっている。とはいえ、ジャンキーにみえても製作費も撮影期間も大作そのもの。そう考えると、なんとも贅沢な作りである。

この監督の作品らしく、キャストがみな生き生きとして、他作品とは一味違った面を引き出されているのは美点。とくにサミュエル・L・ジャクソンは、タランティーノ作品だとアクの強さが3倍増。おバカにみえるが黒幕感たっぷりの男を演じている。

悪辣な農園主を演じたレオナルド・ディカプリオはさらに素晴らしいパフォーマンスを見せており、監督が絶賛するだけのことはある。「タイタニック」の直後にこれに出ていたら、彼が脱却に悩み続けている王子様のイメージも簡単に氷解し、念願のオスカーもとっくに受賞していただろう。それくらいの狂演、演技派の面目躍如といったところだ。

まとめとして、監督長年の構想作品でアカデミー賞でも評価されたものの、私の見立てではこの監督はかなり停滞している印象である。次なる脱皮を期待したいところだが、はたして彼に引き出しは残っているか。

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このマンネリ感も味か。
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今思うと、ここでノミネートならぬ受賞でもよかったような。


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