「きいろいゾウ」50点(100点満点中)
2013年2月2日(夫婦の日)、新宿ピカデリーほか全国ロードショー! 2012/日本映画/カラー/131分/デジタル/ビスタサイズ/5.1chサラウンド 配給:ショウゲート
原作:西加奈子 監督:廣木隆一 脚本:黒沢久子、片岡翔 出演:宮崎あおい 向井理 濱田龍臣  浅見姫香 柄本明

心の弱った女の子に

「きいろいゾウ」は、開始1秒で宮崎あおいの全裸走りがみられる史上初の映画だが、だからといって世のスケベな紳士たちに積極的にすすめられるというわけではない。

植物や動物の声が聞こえる力を持つツマ(宮崎あおい)と、売れない小説家の夫ムコ(向井理)は、出会ってすぐに意気投合、結婚したため互いの過去については疎かった。ツマはムコの背中の刺青の理由もよくは知らない。だからムコに差出人不明の手紙が届いたとき、仲良し夫婦のはずの彼らの間に、不穏な空気が流れ始めるのだった。

愛し合う男と女。相手の過去は知りたいけれど、全部知るには勇気が必要。私ほどのレベルになればそれはむしろ珠玉の金脈であり、内容豊富で波乱万丈なほど楽しめるわけだが、普通の男女は相手があまりにとっぴな経験を積んできた事を知ったらドン引きする。そのまま別れとなってしまうことも珍しくはない。

この二人の場合、やさしげな文学青年風の夫には明らかに似合わない彫り物がまず異様である。その様子は、数度目の濡れ場で観客の目にも明らかになるわけだが、見ると大阪市職員にはとても合格できないような巨大なサイズ。こいつの背後にあるストーリーを知らずに結婚までしてしまうツマは、明らかに病んでるなあというのが私の第一印象である。

じっさい、宮崎演じるこのヒロインは、悩んだときに相談する相手もちょっとおかしい。普通は合コン仲間の男友達とか、優しい元カレとかそんなところだと思うが、彼女の場合は庭に植わったソテツである。世間ひろしといえども、ソテツと人生相談する女がそう大勢いるとは思えない。私が夫なら、ソテツよりも精神科医の前に連れていくと思うが、この映画ではこうした彼女の行動を、かわいらしいアニメ交じりのメルヘンとして描く。

当然、人間の感情を深く考察するようなドラマは望むべくもなく、感性で理解する女性向けのライトな作品である。人間を描く力のある廣木隆一監督でなければ、散々な出来になっていた可能性は高いだろう。彼の絵作りが重厚だから見られるが、それでもしょせんはお気楽オンナノコドラマの範疇である。

さて、物語はツマ側でなく、ムコも相手の秘密、過去について不安を感じる展開がある。なにしろ男にとって、モノにしたはずの女をコントロール、あるいは把握していなかったと気づいた時の焦りといったらない。

そんなとき、即座にこちらの不安を察して男性側に安心を与えてやる女はよき妻である。逆にツマのように、さらなる不安を与えるのはよき恋人である。男がハマりやすいのは、いうまでもなく後者。願わくば、結婚後に出会いたくはないタイプである。

ただし、一見面白味は薄いが、失ってその価値がわかるのは前者。たとえ後者にハマっても、だから利口な男はその手を放しはしない。最後に勝つのはアナタだから、安心して自信を持っていなさい。

と、誰に書いているのかよくわからない呼びかけはともかく、要するにこの映画の言いたいことは、過去やら秘密やらはやっかいものだが二人で頑張って乗り越えた先にはいいものがあるかもよ、という事である。

問題はそれらを構成する要素がことごとく子供じみている点で、だれだれの自殺とか、刺青とか、陳腐なうえに現実感がないことこの上ない。それらをメルヘンチックに扱うのも、ちょいとついていけないところがある。

もっともそれは私が冷静沈着ダンディな男だからであろう。多くの女性、それも心の弱い女の子たちは、つらいことがあるとこうしたメルヘン=悲劇のヒロイン的なものと認識することで、ある種の自己防衛を行っている。

「きいろいゾウ」はそうした層に向けた作品で、彼女たちが見ればそれなりの幸福感と共感を得られるだろうと想像する。あなたがもしそうならば、あるいはそうしたカノジョがいるならば、誘ってみて損はない。終わった後、映画をほめてあげれば彼女は自分がほめられたような気になって、かりそめのご機嫌モードに入ってくれるだろう。

きいろいゾウ (小学館文庫)
西加奈子さんの原作。女性に大人気。
さくら (小学館文庫)
同じ原作者の本。女性がお勧めする一冊、だそうです。


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