「ツナグ」60点(100点満点中)
2012年10月6日(土)より全国東宝系にて公開 2012年/日本/カラー/129分/配給:東宝
原作:辻村深月『ツナグ』(新潮社刊) 監督:平川雄一朗 音楽:佐藤直紀 出演:松坂桃李 樹木希林 佐藤隆太 桐谷美玲

やや安直ながら確実に泣かせる

願いや望みは人それぞれである。最近では、やってもいないiPS細胞の手術をやったと言い張る自称研究員もいた。偉大なるノーベル賞の名誉が欲しかったか、あるいは賞品の冷蔵庫が欲しかったのかは不明だが、あれほど馬鹿げた嘘をつくからにはよほど強い動機があったのだろう。

「ツナグ」は、そんな人間の願望の中でもおよそ最強というべき「死んだ人に会いたい」希望をかなえる男の話。2週目で興収1位に輝いた、上り調子のファンタジック感動ドラマだ。

癌で死んだ母(八千草薫)に、ある事情からどうしても会いたかった中年男・畠田(遠藤憲一)は、半信半疑で「ツナグ」にコンタクトをとる。「ツナグ」とは、死んだ者を呼び出し会わせてくれる不思議な能力を持った者。だが、畠田の前に現れたのは華奢な男子高校生・歩美(松坂桃李)。あきれて帰ろうとする畠田を引き留め、歩美は説明を開始する。料金は不要、死者会うチャンスが行使できるのは一生に一度のみ。ただし死者側が拒否したら会えない。会えるのは満月の夜、夜明けまでの一晩きり──。

この映画の構成がよかったのは、最初にツナグのマジカル一泊ツアーを体験するペアが、もっとも演技のうまいベテラン二人だったことだ。

指定されたホテルの一室に行くと、そこに死んだはずの者が待っている。そんな突拍子もない設定は、下手な人間が演じたり演出したりすればすぐに興ざめする。フィクションやファンタジーというものは、それが現実離れしていればしているほど、いかにうまく観客をその世界観にとどめるか、信じてもらうかがまずは重要。YouTubeが仕様変更しても、死にもの狂いで再生回数4億回をキープするくらいの工夫が必要なのである。

その点、この二人は上手かった。まったくツナグを信じていない遠藤憲一が、母親・八千草薫をみたときの表情の変化。これには思わず涙腺を刺激された。

この映画では、同じように死者と会うサブストーリーが2つ3つ用意されているので各個の持ち時間は少ないのだが、この二人にはそれすら必要なく、一気に観客を引き込むだけのドラマを、この瞬間の演技力ひとつで見せてくれた。おかげでそこから先も、観客皆が吸い寄せられるようにストーリーを楽しむことができたのである。

ただし、構成がうまいといったのは、同時にこれ以降はクオリティが右肩下がりになるという意味でもある。

中でも問題なのが、会う相手が死んでいるのか生きているのか不明なエピソードである。この場合、死者と再会一泊ツアー会場のホテルに出向く前に、確実に相手が死んでいることをまずは当事者に納得させるシーンを挿入しなくてはならない。

とくにこの場合、相手への愛情と未練が強すぎるケースだから、遺体でも見せない限りこの人物はそもそも相手の死を信じないだろう。そんな状況のままホテルで実物感たっぷりの相手と再会すれば、よもやそれがユーレイなどと認識するはずはなく、「やっぱりホントは生きてたんだね」ってな展開になるのが当然だ。だがこの映画ではそうならないので、猛烈な違和感を感じてしまうのである。

7年ぶりに出会った男女が、密室でセックスひとつしないのも変。作風を考えればまんま描写しろとは思わないが、脚本上、なにがしかの処理は要るだろう。せっかくファンタジックなムードに酔っていたのに、桐谷美玲の事務所はよほど力があるのかなとか、よけいな事を観客に考えさせるのはいかにももったいない。

また、どのエピソードもいい話だが、繰り返しの作劇は映画としては退屈。むしろ、連続ドラマに向いている素材か。ただし、松坂桃李の演技力は高く、ラストの落としどころも意外性があって泣かせる。

キャストの中、ひときわ輝いているのは、「アナザー Another」(2011)でヒロインを演じた橋本愛。16歳でこの存在感と美貌はただものではない。思わずツナグさんに密室ツアーを申し込んでしまいそうなほどの魅力がある。今後の邦画を盛り上げてくれるに違いない。

ツナグ (新潮文庫)
原作になります。
橋本愛 写真集 『 あいの降るほし 』
早くまた画面にあらわれてほしい、と思わせる何かがある人。


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