「エクスペンダブルズ2」60点(100点満点中)
The Expendables 2 2012年10月20日(土)全国ロードショー 2012年/アメリカ/カラー/1時間42分予定/配給:ポニーキャニオン、松竹
監督:サイモン・ウェスト 出演:シルベスター・スタローン ジェイソン・ステイサム ジェット・リー ドルフ・ラングレン チャック・ノリス リアム・ヘムズワース ジャン=クロード・ヴァン・ダム ブルース・ウィリス アーノルド・シュワルツェネッガー

オジサン感涙

日本では中高年が楽しめる映画が少ないと、かねてから言われている。確かに、海で救助ばかりしている体育会系男子の話とか、テレビ局みたいな警察署の話を彼らに楽しめといっても微妙なところか。

だが、ここに決定版が登場した。「エクスペンダブルズ2」がそれだ。

東欧の山中に墜落した輸送機からデータを回収する楽な仕事──。だがそこには落とし穴があった。バーニー(シルヴェスター・スタローン)が率いる傭兵部隊エクスペンタブルズは、この仕事で仲間を一人失ってしまう。殺ったのはヴィラン(ジャン=クロード・ヴァン・ダム)率いる地元の武装グループ。バーニーは奪われた物資と仲間の復讐のため、ヴィランを追う。

中高年向きといっても、人生のなんたるかをしんみり考えるような人間ドラマでもなければ文学作品でも、時代劇でもない。どこからみてもB級風味あふれる、マッチョな軍事アクションである。

だがしかし、この映画のコンセプトは紛れもなく若者向きではない。だいたい、スタローン、シュワルツェネッガー、ブルースの3人にチャック・ノリスが加わって大暴れ、などといわれて興奮する平成生まれなどそういない。ワクワクしているアナタは、まぎれもないオッサンである。

そんな衝撃的事実に追い打ちをかけるのが、登場する大スターたちの隠せない衰えぶり。ほとんどおじいちゃんになってしまったアーノルドをはじめ、ベテラン陣はいかんせん動きが鈍い。やむを得ないこととはいえ寂しい限り。

もっとも、ドーピング耐性がおそろしく強かったであろう(ほめ言葉)スタローンの肉体美は健在だし、悪役ヴァンダムのハイキックなど、必殺技級のアクションもまたしかり。好々爺にしか見えない伝説の男チャック・ノリスも、レア感たっぷりでお得である。ある戦場におけるスタローンとの奇妙なやりとりは、アクションスター、チャック・ノリスについて突飛な伝説を考えてネット等でおふざけを楽しんでいる英語圏の人々なら爆笑が予想されるところだ。

さて、アクションではそんなレジェンド軍団を動ける若い連中が適時カバー。とくにジェイソン・ステイサムの格闘アクションは毎度ほれぼれする華麗な動きで、絵画的な撮り方は思わず苦笑するほど。熱心なファンでも十分満足できるだろう。

結果的には、質量ともに全作を上回る満足度。人体の重みを感じられない現代的なスタイリッシュ・アクションに違和感を持つ映画ファンは、とくにこれを見逃す手はない。作り手にも中高年ファン向けだとの自覚があるためか、血肉飛び散るスプラッター描写も遠慮なくあるからデートに使うには注意が必要だが、これをいやがらず一緒に見に行ってくれる若い子がいるとしたら、それは貴重な存在といえる。

見所は、テロ事件以来アメリカ国内では撮影困難になった本物の国際空港を舞台にした銃撃アクション。ここでメインを張るのはブルースとアーノルドである。おなじみの名台詞には思わず爆笑。自虐ネタもいける大人のスターたちの競演に思わずニヤリ、である。

それにしてもこのシリーズを企画したスタローンはえらい。ファンがみたいと思う競演を、自らの人望と人脈で実現させた。ビジネス的なうまみも考えてはいようが、おそらくそれ以上に映画界およびファンへの恩返しの思いが強いのではないか。多くの男性の胸の中、大切な思い出が配置されるVIP席に鎮座しているのに活躍の場が十分与えられていなかった往年のスターたちを復活させたことも、特筆に値する。まさにハリウッドのシルバー人材センター、これまでにない高みに彼は上ろうとしている。

世界中の映画ファンが、心の奥底にくすぶらせていた熱い思いを復活させてくれたことを、素直にスタローンに感謝して鑑賞しよう。私を含む中高年のオッサンたちよ。



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