「神弓-KAMIYUMI-」70点(100点満点中)
最終兵器 弓 / Arrow, The Ultimate Weapon 2012年8月25日(土) シネマート新宿、シネマート六本木、 ヒューマントラストシネマ有楽町他、全国ロードショー 2011年/韓国/カラー/スコープサイズ/SRD/2時間2分/日本語字幕:根本理恵/PG-12 配給:ショウゲート
監督・脚本:キム・ハンミン 撮影:キム・テソン、パク・チョンチョル 音楽:キム・テソン キャスト:パク・ヘイル リュ・スンニョン キム・ムヨル ムン・チェウォン 大谷慶彦

公開タイミングが悪かったか

韓国大統領が竹島に強硬上陸した上、天皇をよこして膝まづかせろなどとハッスルしているため、日韓関係は悪化の一途である。我が国の誇るネットの愛国紳士たちもいいように踊らされ仲良くハッスルしているようだが、考えてみれば日本と近隣諸国の仲が悪くなって一番得をするのは、いうまでもなく世界の警察官さまである。

YoutubeのC級映画に端を発するリビアの暴動も含め、都合よく現職大統領の支持率が上がりそうな事件が、常に選挙の年に集中して起こるのも、きっとほほえましい偶然なのであろう。

こうした視点で見ると、オーディションでもしたのかと思うほどのイケメン&美女508人を、外務省に無理を言ってまで急きょ送り込んできたプーチン率いるロシアは老練である。中韓への旅行者が3割以上激減したとのニュースの直後に、金髪美人女子大生数百人が日本を絶賛する観光コメントを連発するのを見て日本人はどう思うか。

ヒステリーを起こした釣り目の不細工な隣人と、船とバスの貧乏日帰り旅行なのに大喜びしてくれる白人美少女。勝敗は言うまでもない。ホントは寂しがり屋の愛国紳士たちなどは、案外真っ先に親ロシアに鞍替えすることだろう。

反日ダンスで中韓が失ったものはロシアが遠慮なく頂き、アメリカの勢力増大にも強烈な牽制球を投げる。外交、ビジネスセンスともにプーチンは超一流の政治家である。早くも失速気味な維新の会は、執務室で淫行する男より彼をスカウトしたほうがよい。

1636年、清が朝鮮半島に侵攻した。朝鮮側にとっては絶望的な戦いのなか、凄腕の弓士ナミ(パク・ヘイル)にとって最も大切な肉親である妹ジャイン(ムン・チェウォン)が、よりにもよって結婚式の最中に清の精鋭部隊にさらわれてしまう。父の形見である家宝の神弓をとったナミは、10万の大軍にひるむことなく、妹のため突撃してゆく。

この映画で描かれるのは丙子胡乱(へいしこらん)の時代。李氏朝鮮が清の冊封国となる契機となった戦争のことだ。

原題にあるとおり、最終兵器は弓ということで、10万人の清軍を前に弓矢だけで戦う命知らずのヒーローの物語である。ちなみに現代の韓国が誇る最終兵器はいうまでもなく李明博大統領。予想できない奇行の数々で、国民の未来を破壊するパワーを持つ。ただし自国民に対してのみ有効だ。

さて、10万人相手に弓で勝てるのかと言われればそれは無理。それをやるためには、10万本の矢を一人で運ぶためにマッスルトレーニングから始めなくてはならない。

だが韓流ならば別。なにしろ最終兵器だから、主人公の超人的活躍たるや本当に清軍を全滅させてしまいかねない勢い。殺した後も何度も回収して再利用するぼろぼろの矢を、自在にカーブさせて命中させる。こうした独特のアクションは新鮮かつ痛快。リサイクル精神あふれるこの戦闘シーンは、リアリティというものをとりあえず忘れておけば十分以上に楽しめる。そもそも本作では正確に考証したというものの、韓国はアカデミズム自体がファンタジーであるから、間違ってもこれが史実などと思ってはいけない。

惜しいのは、背景に変化が乏しいため、主人公が林の中を右往左往してたまに弓を打ち合っているだけ、とみられがちな点。トラを登場させたりと工夫はあるが、まだまだやれるだろうと思う。

清軍はこの戦いで朝鮮人を50万人強制連行したということなので、全編怒りと圧倒的不利の中戦う孤独なヒロイズムを賛美するムードとなっている。連中をそんなに大勢連れてきて何の得があるのかと一瞬思うものの、これは韓国内においてはある種のプロパガンダムービーなので、そういう背景事項が物語への共感を高める要素となっている。

伏線の張り方がたどたどしかったりと多少の不満は残るものの、アクション作品としては平均以上。韓流マニア以外にも比較的おすすめしやすい娯楽作といえる。

ただ残念なのが、こうした愛国的娯楽作品はこのご時世、日本では真っ先に敬遠されがちということ。タイミングが悪かったと、日本の配給会社には同情を禁じ得ない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.