「ゴッド・ブレス・アメリカ」65点(100点満点中)
God Bless America 2012年7月28日(土)よりシネマライズほか全国順次ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/104分/配給:トランスフォーマー
監督:ボブキャット・ゴールドスウェイト 製作:ジェフ・クロッタ、サラ・デ・サ・レゴ、リチャード・ケリー、ショーン・マッキトリック 脚本:ボブキャット・ゴールドスウェイト キャスト:ジョエル・マーレイ タラ・ライン・バー マッケンジー・ブルーク・スミス メリンダ・ペイジ・ハミルトン リッチ・マクドナルド

刺激不足

日本に少なくアメリカにあるものに、実名で何かを批判する文化がある。とくに日本の芸能界は狭くしがらみだらけなので、他人の悪口はタブーである。たまに怖いもの知らずで会社名や人物名を名指しで批判する人がいるが、そうした人の末路は悲惨である。国民的美少女女優と離婚することになったり、仕事を干されて反原発芸人として祭り上げられる人生を歩むことになる。

離婚にリストラとろくでもないことが続く中年男フランク(ジョエル・マーレイ)は、不治の病を宣告されついに自殺を決意する。だが死のうとする瞬間、テレビのリアリティーショーでバカ女子高生がふざけたわがままぶりを発揮しているのを見てぶち切れ。自分が死ぬ代わりに彼女を殺すべく、銃を片手に他人の車を奪い取って現場へと向かう。

「ゴッド・ブレス・アメリカ」は、幾多のセレブ達を実名でけちょんけちょんにけなしまくった事から、アメリカをはじめ各国で拍手喝采されたカルトムービーである。

いい年をした男が、セレブリティー女子高生をぶちころすため自殺を取りやめるというところからしてブラックな展開。

主人公は、そうした有名人たちをショットガンで吹き飛ばしながら、全米縦断の旅に出る。途中で理解者となる別の女子高生(タラ・リン・バー)と出会って意気投合。二人で協力しながら非倫理的でふとどきなアメリカ人どもの頭を吹き飛ばしながら旅を続けるという、大変不謹慎な物語である。

ここで扱われる嘆かわしい現代アメリカの文化は、アメリカ在住者に見せると「あるある」の連続だという。映画の中とはいえ、そうしたものを粛清して回る主人公たちの姿は、ある種の快感痛快感を観客にもたらすのだろう。

刺激的な企画だし悪くはないが、それにしても最近流行のこの手の類似品にくらべると圧倒的にパンチ不足。むしろここまであからさまに人気取りな企画を見せられては、アメリカ人にとってもウザいんじゃないのとさえ思えてくる。少なくとも絶賛するほどの意外性や、新たな教訓や批判精神を持つ映画ではない。

ここで言っているのは、おかしな番組をおかしいといえる、ただそれだけの事だ。実際この2人がやっていることは、よく考えてみればアメリカ特有の問題を扱っているわけですらない。特に映画館における態度の悪い観客のくだりなどは、現代特有の問題ですらない。ほとんどノリと勢いで入れ込んだエピソードであり、社会派ブラックコメディーとしての純度を下げているだけ。早くもアイデア切れを感じさせ、苦しい。

この二人、ボニー&クライドをモチーフにしているのだろうが、二人を扱った某有名古典映画も実在の犯罪者を美化しているという意味では類似点がある。きっとどこか思うところがあるのだろう。

狙いはよかったし、傑作になれる可能性のある作品だったが、少々刺激不足。もっと突き抜けた描写や展開に、骨太な主張を抱合せた脚本があれば、単なるきわものから一歩抜きんでることができたはずだ。

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