「おおかみこどもの雨と雪」40点(100点満点中)
2012年7月21日公開 全国東宝系 2012年/日本/カラー/117分/配給:東宝
監督・脚本・原作:細田守 脚本:奥寺佐渡子 キャラクターデザイン:貞本義行 声の出演 宮崎あおい 大沢たかお 黒木華 西井幸人 林原めぐみ

意欲的な試みも不協和に終わる

細田守監督の最新作は、おとぎ話のなかにリアルな出産子育ての物語を入れ込むという、極めて意欲的な作品である。

これを監督は、子供たちにとっては楽しいおとぎ話、若者にとっては、子育ての驚きと憧れ、そして親たちには子供の成長を懐かしがれるようにと、全年齢向けにアピールすべく脚本を作り上げた。

だが、それらはもともと混ざり合うことのできない要素であった。また、その試みにアニメーションというジャンルや彼のタッチが適切だったかについても疑問が残る。

大学生の花(声:宮崎あおい)が恋に落ちた男性は狼男だった。やがて二人の間に父親の特徴を受け継いだ「おおかみこども」が二人生まれた。人前で変身を見られたら一家の幸せは終わり。だから花は人の目から隠れるように、だがそれでも幸福いっぱいに都会の片隅で彼らを育てていたが、あるとき彼女に悲劇が訪れる。

この映画を見るとどこか落ち着かない気分にさせられる。生理的に受け付けないというか、演技も演出もくさくて見ていられないというものである。それは、監督の考察の浅さに原因の一つがあるのではないかと思う。この監督が出産子育てを経験したことがあるのかどうか知らないが、作品を見る限りではどうもそれらを想像メインで描いているような、表層的なものを感じてしまうのである。

子作りから授乳シーン等、子供が見るアニメーションにしては意外性ある描写もあるが、そこから感じるのは生命の神秘や感動ではなく、そこはかとない居心地の悪さである。なにしろコトの始まりは獣姦だ。国民的アイドル女優がエッサエッサとそんな場面を演じている。さすがの若き演技派、宮崎あおいもさすがにこれは初経験であろう。

それはともかく、音楽が流れっ放しの恋愛パートもわざとらしい。恋愛をやたらと美化、純化したがるのはオタクな人たちの特徴だと思うが、いったいなぜなのか。少しは不自然に思わないのか。

こうしたオタクアニメのひな形で純朴な絵本ファンタジーを作ってしまったような、しかも時折前述したような生々しい描写が入るという、きわめて食い合わせが悪い作品である。

この監督の特徴である女性キャラの号泣シーンも、相変わらず盛大にわんわんやっていて見ていて気恥ずかしい。あまりにもくさすぎる。キャラクターの満面の笑顔も、へたくそな女優の0か100かの単純な表情づくりをみているようで共感しにくい。

ここであげたようなオタクアニメ臭がなければ、決して悪い企画ではなかったと思う。だがそれがかもしだす居心地の悪さが、ときに作家の狙いだの作品のテーマを考えるのも嫌にさせてしまうことがあるのだ。このマイナス点について、作り手側は一度考えてみてほしい。

この際だからもっとはっきり言おう。

おおかみこどもが目をウルウルさせて猫耳を出したり、そういったところがとにかく気持ち悪いというのである。こういう上目づかいを描いておけば可愛いでしょ? ネコミミ可愛いでしょ? とオジサン揃いの製作側に語りかけられているようで生理的にぞくっとくるのである。

要するに、作家のタッチと、やりたいテーマがかみあっていない。例えば大人気の「時をかける少女」(06年)は、元ネタが中年男性大絶賛のアイドル映画であり、イタ恥ずかしなオタク系ドラマだから、彼のタッチにドンピシャであった。

恋愛、出産、子育ての悩み、そして子供向けファンタジー……あちらを立てればこちらが立たぬ関係性の上に成り立った組み合わせであって、ちょいと無理があったのではないか。

人里離れなくては育てられない特殊な要素(映画の中ではオオカミ人間)を、なにがしかに例えているのかと考えてみていたが、そうした社会的な問題提起も感じられず。

いずれにせよこれをエンターテイメントとして仕上げるには相当な力量がいる。本作を見る限りまだその域に渡しているとは思えないが、それでも細田監督の次回作には期待したい。テーマの選別さえ誤らなければ、傑作を量産できる才能であることだけは間違いないのだから。



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