「夜のとばりの物語」70点(100点満点中)
2012年6月30日 新宿バルト9にて公開 2011年フランス/カラー/84分/三鷹の森ジブリ美術館=スタジオジブリ
監督・脚本:ミッシェル・オスロ 音楽:クリスチャン・メイル 声の出演:坂本真綾 逢笠恵祐 金尾哲夫 西島秀俊

ビジュアルだけなら満点

相変わらず映画界では3Dが流行中だが、実のところ必ずしもそれがアドバンテージになるわけではない。年に1度か2度の映画鑑賞だから、どうせなら3Dにしようと選択する人がほとんどと思うが、年に何百本も見る身としては、2Dのほうが向いていると感じる作品がほとんどだ。これからのレビュアーは、本当にその作品の鑑賞に3D追加料金が不可欠なのかを判断し伝える必要があるし、それがユーザーのためになるだろう。

そんな中で公開される3Dアニメーション作品「夜のとばりの物語」は、決してゴージャスな超大作でもなければクモ男も出てこないが、意外と3Dで見る価値があるのではないかと思わせる。影絵と3Dの組み合わせという、ユニークな一本である。

一作ごとに新しいチャレンジをするミッシェル・オスロ監督の最新作。影絵じたい、ある意味アナログな3D効果を含んだものだから、この映画を3D作品にしたのは当然なのかもしれない。

もともとはテレビ向けの企画で、12分間の短編を一つにまとめたオムニバスとなっている。映像の美しさは前作「アズールとアスマール」(2006)からさらに進化し、なかでも影で描かれるキャラクターの背景となる鮮やかな色彩の豊饒さは言葉で表現できないほど。この圧倒的な美しさだけでも、見ておいて損はないレベルに達している。

この圧倒的なビジュアルクオリティに加え、物語がまた美しい。純粋なる愛、思いやりをテーマにしたそれには心洗われる。演じる声優たちの声や言葉づかいもまたしかり。美しいものを子供(3歳か4歳くらいから)にみせたいお父さんお母さんにとっても、本作はベストチョイスとなるだろう。

影絵だからと言ってスペクタクルが地味ということもなく、オオカミとクマの戦いや、死者の国の城に至る一本道に現れる巨大な番人たちのもたらす緊迫感などは、十分映画としての見せ場として通用する。各キャラクターの感情も、せいぜい目玉の動きで表すほかないのに、ひしひしと伝わってくる。確かな演出力には感心する。

各エピソードは10分強程度で、その間にプロムナードも含まれるため、それぞれの物語はあっという間に終わる。意外性があったり教訓があったり、感動的だったりとどれも魅力たっぷり。結末への道は、迷うことなく一直線に進む。あまりにテンポが良すぎて、余韻に浸れないのが不満なほどだ。

子供でも恋人でもいい。愛する人と見に行って欲しい映画である。もし自分を愛しているからと言っても、おひとりさまでの鑑賞はあまりすすめない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.