「ワン・デイ 23年のラブストーリー」70点(100点満点中)
One Day 2012年6月23日(土)より、 TOHOシネマズ有楽座他全国ロードショー! 2011年アメリカ/カラー/107分/スコープサイズ/ドルビーデジタル 配給:アスミック・エース
監督:ロネ・シェルフィグ 原作・脚本:デイヴィッド・ニコルズ(ハヤカワ文庫刊) 主題歌:エルヴィス・コステロ「Sparkling Day」 キャスト:アン・ハサウェイ ジム・スタージェス パトリシア・クラークソン ジョディ・ウィテカー

ロマンチック男子に

インターネットで流行中の女性叩きをしているオタクの人たちは、よく意見を聞いてみるとかなりのロマンチストである。彼らが求めてやまないのは、今どきどこに生息しているのかと思うような黒髪ロングな清純女子の、一途な純愛物語。そういうものは、彼らが一番嫌いな韓国映画が最も得意とするジャンルなのだが、そのことについては誰も指摘しない。くれぐれも、同族嫌悪という単語は禁句である。

エマ(アン・ハサウェイ)とデクスター(ジム・スタージェス)は大学時代からの知り合いだが、互いを特別に思いながらも一線は超えない親友関係の道を選んだ。二人の関係にとっての節目となる7月15日、何度も繰り返されるその日、二人はいつもそれぞれの道を歩んでいる。だが、本当に信頼できるのはお互い一人だけなのだと、彼らは気づいていた。

「ワン・デイ 23年のラブストーリー」は、日本の誇るネットオタクも満足のとびっきり一途な純愛物語。そこにロマンチックな主題歌と、意外性ある結末をぶちこんだ不思議なお話である。

この映画に出てくる2人は、最初の段階で性的な関係にならなかったために、その後23年間にわたり、互いに強く惹かれながらも友人関係を続ける羽目になってしまう。ある出来事がおきる7月15日を節目として何度も再会する二人は、その時々のお互いの成長を見守り続ける。そして互いの人生に少なからぬ影響を与えてゆく。たとえそれぞれにパートナーができた時も、それと同じかときにはそれ以上に深い信頼関係で彼らは結ばれている。

こうした関係の場合、いつ2人が男女関係に落ちてしまうのか、観客はハラハラさせられる。それがある種のスリリングな要素として、観客の興味を引きつける。

地味な眼鏡少女だった彼女と、大学のアイドル的存在だったイケメンの彼。2人は当然、見た目から想像されるような対照的な人生をそれぞれ送る。彼は華やかなテレビ業界へ。彼女は本を出版する夢を持ちながらも、不本意な単純労働の世界へ。誰もが知る通り、いけてるやつは人生のピークが早く訪れる。

先に行く彼が、くすぶる彼女を常に励まし続ける。キミに与えられるものは自信だけだ、などと泣けるセリフでうっとりさせる。明日から使える女を落とす言葉集に掲載したいほどの名台詞だ。むろん、彼にとっても、ストレスの多い職場の中で彼女の存在だけが心の安らぎになっているわけである。二人の関係は、意外にもセックスを抜きにしたおかげでフィフティフィフティである。

心理描写が誠実かつ的確なため、韓国映画であればお気楽ラブコメになるところを、大人の鑑賞に耐えるドラマ作品となっている。果たして彼らは結ばれるのか、いつHしてしまうのか、あるいはしないのか、最後はどのような選択をするのか。

もろもろを考えながら観客は見ているわけだが、カップルの場合はことによると男性と女性で全く違った結末を期待しながら見ることになろう。そしておそらくこの映画のラストは、彼らのどちらの期待をも、いい意味で裏切る事になるはずだ。見終わった後、2人で満足いくまで話し合っていただきたい。

この映画で一番センスがいい名シーンは、彼女の元カレが主人公の男に会って、あることを直接語りかける場面である。2人のやりとりは短いが、非常に感動的。本作屈指の名場面なのでご堪能あれ。



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