「ソウル・サーファー」75点(100点満点中)
Soul Surfer 2012年6月9日(土)全国公開 2011年/アメリカ/カラー/106分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
監督:ショーン・マクナマラ 原作:ベサニー・ハミルトン キャスト:アナソフィア・ロブ ヘレン・ハント デニス・クエイド キャリー・アンダーウッド

主演女優の力

「ソウル・サーファー」は、思わぬ障害を持つことになったアスリートが逆境から這い上がる、いかにもディズニー好みの感動スポーツドラマだが、それを嫌みなく仕上げることができたのは、ひとえに主演女優の力である。

暖かい家族と暮らすハワイのカウアイ島で、何よりサーフィンを愛する13歳の少女ベサニー(アナソフィア・ロブ)。地方大会で活躍し、プロサーファーへの道が開けたそのとき、彼女はサメに襲われ左腕を失う。誰もがおしまいだと思った最悪の悲劇に、しかし彼女は決してへこたれなかった。

アナソフィア・ロブは、ハリー・ポッターシリーズのエマ・ワトソンら90年代に生まれた若手女優の中でも群を抜く美少女女優。この分野の世界的権威である私の意見なので何より信頼できる話だが、おそらく彼女は日本人がもっとも好むタイプの白人女性の顔立ちをしているのではないか。

性格のよさそうな、受け入れ間口の広そうなその笑顔は100点、この映画の中で見せる涙をこらえる表情などは120点という、まさに非の打ちどころのない美人である。そんな彼女が出ずっぱりで、実在の同名プロサーファーの自伝を演じる。

そのベサニー・ハミルトン本人同様、この映画の中でアナソフィア・ロブはほとんど片腕しかない姿で登場するが、これは緑色の袖を装着して撮影し、あとからデジタル処理して削除する手の込んだ映像技術のたまものである。

その一方で、彼女が襲われる巨大サメは昔ながらの手作りハリボテという、よくわからないアナログ手法がとられていたりもする。どちらも違和感のない仕上がりになっているのは、さすがのアメリカ映画クォリティ。

とくにこの、サメに襲われる場面の緊迫感はなかなかのもので、そこにたまたま居合わせた親友の父親の、焦りながらも必死に冷静に対応する姿などはとてもリアルである。その的確な対応には、見ているこちらもうれしくなる程頼もしい。こういう場面で周りの大人が醜態をさらすのを見るのは、映画といえども気分が悪い。そんな観客心理をよくわかっている。まともな大人たちに囲まれ、この偉人サーファーは育ったんだと印象付ける手堅い演出である。

エンドロールでは、劇中に描かれているのと同じ場面の本人映像を流すあたり、かなり事実に忠実に映画化されていると思われるが、だとしたらこの事故後の主人公の冷静さには驚く限りである。

この年齢の女のコが腕を失ったというのに不要に取り乱すこともなく、見舞客に冗談まで言っている。気丈だし、とても素直なそのキャラクターには誰もが魅了されてしまう。おまけに顔がアナソフィア・ロブときたら、世界中の全中年男性が協力を申し出たくなるはずだ。

サメへの恐怖やトラウマ的な描写がゼロで、さっさと海に入ろうとするあたりは、いくら映画でもそりゃないよと思わなくもないが、何となくこの愛すべきキャラと顔で押し切られてしまった感がある。美少女は得だ。泣かせるための臭いセリフも多数あるが、よほどの共感を集めたヒロインでなければ失笑を買うところだ。

自分の失ったものばかりに目を囚われていたヒロインが、ある自然災害の被災地を訪れることで、自分にしかできない事に気づく。それこそが、事故によって彼女だけが得たものであり、彼女の個性であり、武器であった。そこから、本当に強いサーファーへと彼女は生まれ変わる。映画「ロッキー」を彷彿とさせるトレーニングシーンのモンタージュには思わず苦笑だが、片手腕立て伏せやチンニングなど、なかなか心ふるわせるものがある。

アナソフィア・ロブは、サーフシーンの多くを自分で演じたが、難易度の高い技はベサニー本人が代役として演じた。アナソフィア・ロブへサーフィン指導をしたのも彼女である。サーフィン映画としては、特段撮影がすぐれているとか、激しい見せ場があるわけではないが、そんなわけで素人が見てもわかりやすく、共感たっぷりに仕上がっている。



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