「ケイト・レディが完璧(パーフェクト)な理由(ワケ)」35点(100点満点中)
I Don’t Know How She Does It 2012年6月2日(土)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー 2011年/アメリカ/90分 配給:ファインフィルムズ
監督:ダグラス・マクグラス 原作:アリソン・ピアソン 脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ キャスト:サラ・ジェシカ・パーカー ピアース・ブロスナン グレッグ・キニア クリスティナ・ヘンドリックス

セレブのたわむれに見えてしまう

「ケイト・レディが完璧(パーフェクト)な理由(ワケ)」は、仕事に恋にがんばるアタシ、な女の子が一人または同性の友達と見に行って話のタネにするようなタイプの映画である。

投資会社のファンドマネージャーとして成功しているケイト(サラ・ジェシカ・パーカー)は、優しい夫や2人の小さな子供に囲まれ、誰もが羨む暮らしをしているかに見えた。だが実際は、あまりに忙しすぎて、自分が理想とする子育て、夫婦生活とはかけ離れた状況。彼女は彼女なりに、理想と現実のギャップに苦しんでいた。そんな折、過去最大級の大きな仕事が舞い込み、家庭を大事にしたい彼女の思いとは反対の選択をせざるを得ない状況に巻き込まれる。

働く女の悩みをリアルに描き、共感を集めて女性客を励ますというコンセプト。いまどきのアメリカ映画は不況の影響でテーマが保守的になっているので、この映画の結論もそういう方向性である。

アメリカの花形産業、証券業界でバリバリ活躍しているヒロインとなれば、誰もが憧れるパワーエリート。……という風に観客に思わせたいがため、あえてステレオタイプな描写に徹している。ある産業の労働者たちのボーリング対抗戦に飛び入り参加する場面では、金融業界が思いきり嫌われている様子がギャグとして描かれたりするが、ここで我々外国人の観客は、米国社会の格差間の断絶のすさまじさに背筋が少々寒くなる。

さて、経済面でのヒエラルキーではピラミッドの上の方に鎮座するそんなヒロインも、子育てママのヒエラルキーでは最下層。何しろ忙しいから子供にはろくなものを食べさせてないし、母親ならではの心のこもった手作りのもろもろを与えることもできやしない。だから、彼女の仲良しママ友は悩みを共有できるシングルマザー。逆に、彼女ができないことをすべて完璧に成し遂げているママスター、ママセレブには猛烈な劣等感を感じている。

同じ女性が、オンとオフでヒエラルキーの上と下を行ったり来たりする、そこが本作の設定における一番の特徴である。ようするに、どちらも上の方にいないと女の子は満足できないというわけだ。だが、せめてどちらか一つを選ぶなら家庭、子育て面を充実させたいとどうやらこの映画の作り手は主張している。そのあたりがイマドキの女性たちの本音をよくつかんでいる。アメリカ映画は時代の空気を読む力が本当に優れている。似たコンセプトで「ガール」を作ってしまう日本の映画業界とは対照的である。

子供の美容院デビューを見逃してしまった喪失感とか、扱うエピソードもリアリティがあって、いかにも経験者は語る、といった感じ。

しかし、それでも本作からはどこか「作られたリアル」的なインチキ臭さが漂う。そもそも、金持ちが忙しすぎててんてこまい、ってな状況が納得しにくい。金さえあれば時間などいくらでも買えるアメリカで、苦労エピソードをこれでもかと見せられても白けるのみ。実際は、貧乏人ほど忙しくて子育てなんぞに手をかけられないのが常識であろう。

結局のところ、勝ち組の自覚を持ちながら贅沢な悩みを抱える幸せなマザーたちのための映画。悩めるアタシってステキ、というわけか。そうしたセレブリティがつまらん悩みでグダグダするだけ、サラ・ジェシカ・パーカーはそんな役しかできなくなってしまった。

ケイト・レディは負け犬じゃない
原作。タイトルからして全然違う。
幸せなワーキングマザーになる方法―ポジティブ心理学で手に入れる最高のワークライフバランス
ポジティブなんとか思考の本とかに頼るようになったら人間終わりです。


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