『ヴィダル・サスーン』60点(100点満点中)
VIDAL SASSOON: THE MOVIE 2012年5月26日(土)より渋谷アップリンク、銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか、全国順次公開 2010年/アメリカ/カラー/90分/配給:アップリンク 監督:クレイグ・ティパー アートディレクター:スティーヴ・ハイエット 脚本:へザー・ゴードン キャスト:ヴィダル・サスーン マリー・クワント グレイス・コディントン

本人が語る我が人生

ファッション映画に外れなし。そんな風に長年感じてきたとおり本作も確かに面白いドキュメンタリー映画ではあるのだが、正直あまりタイムリーではないし、わざわざ今作って見せるようなものではないなというのが率直な感想であった。

ところが、日本公開直前、サスーン本人が亡くなったことで、この映画はその唯一足りないものを手に入れた。映画は、本人へのインタビューを中心に、周辺の人々の証言で補強したドキュメンタリー。正統派の作りだから、暴露話的な内容はほとんどない。

彼の名は、多くの日本人にとってはシャンプーのブランド名程度の認識だろうが、美容業界ではまさに偉人級の実績を残している。サスーンカットと称される革新的な技術、その実業家としての成功の詳細を改めて見ることができて面白い。

彼のサロンでは全員がダークスーツ、靴を磨かないで出勤するとクビという、非常に厳しいながらもユニークなスタイルで髪を切る。そんな彼らが、客の要望に対しやんわりと反論し、新しい提案をする場面が面白い。カジュアルな服装ばかりのいまどきの美容師の人たちは、これを見てどう感じるのだろう。

先進的、革新的の権化というべき人物の言葉が、いつの間にか時の熟成を経て普遍的な説得力を獲得するに至るあたりも興味深い。ビジネスマンにとっては、仕事をどう進めるべきかのヒントをいくつも得られるだろう。

戦中派のユダヤ人として歴史の生き証人でもあるが、その出自と成功をリンクさせる演出はない。そうした民族・社会的な関係性よりも、むしろ人間としてのパーソナルな魅力を描いており、また観客もそこにひかれる。あれほどの成功者でも、ある悲惨な体験をしている。人生帳尻が合うものだとしみじみ思わされる。

映画ファンにとっては、「ローズマリーの赤ちゃん」(1968)撮影時におけるミア・ファローとのエピソードが面白かろう。そういえば劇中でもサスーンの名前が出てくるが、その裏にはこうしたエピソードがあった。

美容師ながらタレント業や実業家として手広く活躍していたヴィダル・サスーン。しかし、髪型づくりに関する情熱だけは不変であった。彼の様々なスタイルは、今見てもおしゃれだし、また現代のヘアスタイルにもしっかりと受け継がれている。

美容、ファッションに興味ある人には、安心してすすめられる一本である。

ヴィダル・サスーン自伝
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髪のあるうちにたまには使ってみますかね。


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