『ブレーキ』70点(100点満点中)
Brake 2012年5/19より、シネマライズにて公開! 2012年/アメリカ/91分/ビスタサイズ/カラー/配給:アットエンタテインメント/提供:アット エンタテインメント、パルコ
監督:ゲイブ・トーレス 脚本:ティモシー・マニヨン 音楽:ブライアン・タイラー キャスト:スティーブン・ドーフ カイラー・リー JR・ボーン

オチだけが惜しい

映画を安く撮ろうと思えば、なにしろ短期間で撮り上げるのが一番だ。そのためには移動をなるべくなくし、登場人物を減らし、できればスタッフも減らす。それが行き着くところまでいくと、この映画のような作品になる。

ある男ジェレミー(スティーヴン・ドーフ)は、車のトランク内で目を覚ます。どうやら誰かに誘拐されたらしい。目の前にはデジタル時計が残り4分を刻んでいる。いったいこれは何なのか。4分後に何が起きるのだろうか……。

『ブレーキ』は、いきなり狭苦しいプラスチック棺桶で男が目覚めるところから始まる。この棺桶は車のトランク内に設置されており、どうやら運転席方面とつながる細い穴があいている。ときおりそこから何がしかのアイテムが出てきたりするのは、なんだかシュールで笑いを誘う。

とはいえ、ほとんど完璧な密室劇であることに違いはない。ただ、『[リミット]』という映画では、土中に埋められた棺に閉じ込められる主人公が出てくるが、それに比べれば壁1枚向こうは外界というあたり、相当な希望が残されている。

それにしてもこんな狭いところに閉じ込められて、主演俳優はさぞ重労働できつかっただろう。だがその分、製作者は大喜び。主人公以外はほとんど無線や電話の声の出演なのだから、これまたお金がかからない。徹頭徹尾、低予算を押し出したような映画である。

これ以上予算を節約できる狭い舞台を探すとなると、もうほとんど思いつかない。いっそのこと画面を青一色にして、声と音だけで映画を作るとか、そういう無茶苦茶なアイディア以外ない。ただし、そうした映画はすでに存在する。

さて、じつは主人公が目覚める棺桶内には、最初からなぜか無線機という強力な武器が与えらえている。彼はこいつを使って近くを走行するトラックドライバーとの交信に成功する。ただしよく考えてみたら、助けてもらおうにも自分はトランクにいるのだから、相手に自分を見つけてもらうことすら不可能に近い。自分がどんな車に乗せられているのか、何色の車なのかさえわからないのである。このジレンマはかなり面白いものがある。

だがそこで主人公は諦めず、機転を利かせて自分の位置を伝えようとする。果してどんな方法でそれを行うのか? 皆さんもぜひ考えてみて欲しい。そして、映画館でその答えを楽しんでいただきたい。

これはほんの1例で、この映画はノンストップアクションという言葉が相応しいほど、見せ場が連続する。これだけ沢山のアイデアを詰め込んだ脚本家と監督には心より感服する。最後まで退屈する時間は全くない。魅力的なキャラクターが次々出てくるので、閉じ込められた男と向き合うだけの気が重い映画ではない。

褒めてばかりではなんなので苦言も呈しておくと、まずミステリーというものは、トリックが奇抜なら高い評価を得るというわけでは決してない。このことは何度か書いているが、それよりも重要なのはなぜそんなまどろっこしいトリックを犯人が使ったか、である。この、動機と必然性の部分をいかにうまくでっちあげるかに私は常に注目しているが、そこんところのいい加減さがこの作品唯一にして最大の弱点である。

平たくいうと、犯人がこんなやり方をする必然性がほとんど感じられないのである。どんだけ遊び心ある犯人なんだと誰もが突っ込みを入れたくなる。そんなオチに脱力であった。

この1点、しかし最重要なオチで転んだがために、この点数程度しかあげられない。もうちょいうまく理由付けを考えていれば、一気に評価もはね上がったのだが。



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