『キリング・フィールズ 失踪地帯』55点(100点満点中)
Texas Killing Fields 2012年4月14日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー 2011/アメリカ/105分 配給:ミッドシップ 監督:アミ・カナーン・マン 製作:マイケル・マン、マイケル・ジャッフェ 脚本:ドナルド・F・フェラローネ 出演:サム・ワーシントン ジェフリー・ディーン・モーガン ジェシカ・チャステイン クロエ・グレース・モレッツ ジェイソン・クラーク

≪死体不法投棄の名所≫

AKB48の前田敦子が卒業宣言をしてから、あらゆるメディアが彼女の話題一色になったように、ハリウッドでも話題の人、人気者には仕事が集中するのが普通である。この映画の主演サム・ワーシントンもそうで、公開時期のズレなどもあって、日本では今年、彼の映画が立て続けに5本も公開される状況になっている。

中でもこの『キリング・フィールズ 失踪地帯』は、リアリティーにこだわった犯罪ドラマ。『アバター』(09年)や『タイタンの戦い』(10年)などスーパーヒーロー的なイメージがある彼としては珍しい、地道に捜査を続ける刑事の役を演じている。

テキサスにはキリングフィールズと呼ばれる殺害死体発見の多発地帯がある。気の荒い刑事マイク(サム・ワーシントン)は、NYからやってきた相棒のブライアン(ジェフリー・ディーン・モーガン)とその近くで起きた連続少女失踪事件を捜査していた。そんな折、別の少女殺人事件の協力を依頼されたブライアン。これもまたキリングフィールズに引き寄せられるように発生した関連事件なのだろうか……。

ヒーロー役でもさほどの存在感があるとは思えないのだが、良くも悪くもサム・ワーシントンの演技は周りに溶け込んでしまうので、こうした作品だと余計に目立たなくなってしまう。だからこそだろうか、こちらのほうが似合っている印象がある。

この映画は実話の映画化ということもあるが、監督がマイケルマンの娘で、中途半端に父親にタッチが似ているため、猟奇的な事件を扱っていながらあまり派手さは感じられない。

マイケル・マンというのは、徹底したリサーチによってリアリティーを積み上げていく演出家で、テレビドラマシリーズの「マイアミ・バイス」では、一見軟派なマイアミの刑事を描きながらも、捜査シーンや突入シーン、とくにガンアクションではディテールにこだわった斬新な演出を見せ高い評価を得た。

娘のアミ・カナーン・マン監督もそれを見習ったか、本作でもスタッフ、キャストを引き連れ、犯罪関係の施設を視察したり、麻薬患者の施設に体験入所させたりといった役作り・事前の準備を行っている。そのかいあってか、少なくとも初監督とは思えないほど色気のある映像作りには成功している。

ただし、見栄えはいいものの物語の主題はボケボケで、何をやりたいのかがはっきりしない。スリラーとしては緊迫感が薄くだらだらしているし、かといって社会的なメッセージ性も感じない。リアリティーとエンターテインメント性を両立させている父親の域には、まだまだ及んでいない。

この映画に出てくるキリング・フィールズというのは、殺人事件の死体が沢山見つかる湿地帯のことだそうだが、散歩をすれば死体にあたるとはさすがアメリカ。もはや犯罪ワンダーランドである。しかし、こうした魅力的な題材をうまく生かすことができなかったあたりが、この監督の成長途上なところか。



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