「マリリン 7日間の恋」70点(100点満点中)
My Week with Marilyn 2012年3月24日(土)より[角川シネマ有楽町]他全国ロードショー! 2011年/アメリカ・イギリス/カラー/1時間40分/スコープサイズ/字幕翻訳:戸田奈津子 提供:カルチャー・パブリッシャーズ 配給:角川映画
監督:サイモン・カーティス 脚本:エイドリアン・ホッジス 原作:コリン・クラーク 出演:ミシェル・ウィリアムズ ケネス・ブラナー ドミニク・クーパー エマ・ワトソン ジュディ・デンチ

世界一の萌えキャラ

ミシェル・ウィリアムズが往年の大スター、マリリン・モンローを演じて高く評価されたこの映画は、しかしマリリン世代以外の若い人にとっても楽しめるユニークな恋愛ドラマである。

1956年、ハリウッドのスーパースター、マリリン(ミシェル・ウィリアムズ)は、映画「王子と踊り子」撮影のためイギリスへとやってきた。だが、監督でもあるローレンス・オリヴィエ(ケネス・ブラナー)とはそりが合わず、セックスシンボル脱却を目指す演技面でも満足がいかない。神経症的な彼女はやがて仕事をボイコットし、雑用担当の若者スタッフ、コリン(エディ・レッドメイン)とお忍びデートを始める始末だった。

この物語は、実際にマリリンが1956年に主演した「王子と踊り子」の助監督だったコリン・クラークによる原作を元にしている。彼が23才だった頃、その映画の撮影中に起きた知られざる2人の恋愛の様子を、瑞々しい純愛物語に仕上げたものだ。

主演のミシェル・ウィリアムズはマリリン・モンローを演じるため、モンローウォークに代表されるあの色っぽいしぐさをマスターすべく練習を重ねた。彼女自身、モンローのファンだったと語っているが、その役作りはただ似せるのではなく、似ていないのにモンローに見える、を目指したもので、みごとに成功している。

顔つきも体系もビミョーに異なるのに、彼女がオールヌードでバスタブに入り、こちらを誘惑するように見つめる目はどこから見てもマリリン・モンローである。この点、マーガレット・サッチャーを演じて主演女優賞を受賞したメリル・ストリープを髣髴とさせるアプローチであるが、それに勝るとも劣らないパフォーマンスといえる。もしこういうカノジョがいたら、週代わりで佐々木希やあっちゃんになりきってもらえるのでお得であろう。ミシェル・ウィリアムズ級のカメレオン美女がいたら当方まで即連絡を。

なおこの映画の撮影は当時と同じ撮影所を使い、ミシェルもマリリンが使った楽屋をそのまま使用したという。実物の調度品も集められるなど、細部まで細やかな気づかいがなされている。そうした本格的な画づくりもまた話題である。

しかし、そうした格調高い雰囲気とは裏腹に、物語自体はまるで日本のラノベのような、いわば萌え系の恋愛ドラマとみることもできる。

「ノッティングヒルの恋人」ではないが、アイドルと現実に恋をするというのは、男の妄想としてはド定番のメニュー。会いに行けるアイドル"AKB48"が全年齢的に人気を博しているのを見れば、それは証明されている。

この映画でも、2人が人目を忍んでデートする場面はこのうえなくロマンチック。なにしろデート場所は伝統ある全寮制学校で知られるイートン校やらウィンザー城ときた。ちなみに実際にロケ撮影をしたというから驚きだが、その誰もいない水辺で2人が繰り広げるあることなどは、たまらない胸キュン展開である。

ましてこのヒロインは、実在の、しかも世界一の萌えキャラである。この映画では、彼女が恥ずかしげもなく主人公の若者の前で服を脱ぎ、その豊満なボディをスクリーン上でさらす。見ている男の観客たちも主人公同様、目がハートである。試写室の横の席で見ている50代のおじさんもそんな思いをしてるのかと思うと大変気持ちが悪いが、実際これは全年齢向けラノベムービーといっても過言ではない萌えっぷりである。

そもそもこの原作じたい、どこまで本当なのか証明しようがない。書いたコリン・クラーク自身は、これを知られざる逸話、40年間胸に秘めてきた秘密の物語などと言っているものの、もしかしたらほとんど妄想かもしれないし、実際はこんなプラトニックではなく、ヤりまくっていたかもわからない。そんなものを美談にしているのかこのオッサンはなどと思うと、物語に没頭できないので注意が必要である。

そうした原作者の顔を脳裏に思い浮かべなければ、この映画は男にとって最高にロマンティックな恋愛ドラマである。

ただユニークなのは、あくまで男視点で語られるこの物語は、彼女の本心が最後までどうだったのか神秘のベールに包まれていることである。

いかな原作者とはいえ、あのマリリン・モンローの内面描写まで踏み込めるはずはないので、これは脚本としては適切な処理であろう。

見終わった後、観客たちはマリリンがこの恋をどう思っていたのか、どう感じていたのかと思いをはせる。その解答もしくはヒントは、マリリンが彼氏に自分を何と呼ばせていたか、そこに表れているような気がするが、果して皆さんはどのように感じるだろう。



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