『SHAME -シェイム-』60点(100点満点中)
SHAME 2012年3月10日シネクイント、シネマスクエアとうきゅう 他 全国順次公開 2011年イギリス/100分/ギャガ
監督・脚本:スティーヴ・マックィーン 出演: マイケル・ファスベンダー キャリー・マリガン  ジェームズ・バッジ・デール

セックス依存症を描いた衝撃作

一般的に、男にとってセックスというのは、毎晩求められても、あるいは毎晩断られても辛いものである。求める相手も求められる相手もいない読者諸氏からは、こんな前ふりを読むのもつらいよと突っ込まれそうだが、「SHAME -シェイム-」はまさにその悩みの種=セックスが主題なのでやむを得ない。

ニューヨークで人もうらやむエリートとして一見何不自由なく暮らすブランドン(マイケル・ファスベンダー)は、しかしセックス依存症に悩まされていた。会社での理性的な態度を維持する代償に、彼は日に何度も無為なる射精をするほかないのだった。

まずよくある誤解として、本作はスティーヴ・マックィーン監督と映倫が局部の修正についてバトルを繰り広げたという前評判から想像するほど、エロ重視な内容ではない。

濡れ場は確かに幾つかあるが、通常の映倫の基準でぼかしが入っている程度。これは監督が自然な消し方ならばと妥協したものである。ちなみに映倫の基準というのは幾つかあるが、男女がベッドの近くなど性行為を連想させるような場所で裸になっている場合はほぼ確実に修正が入る。だからこの映画でも、男性が1人で歩いているシーンなどは性器が映っていてもぼかしは入らない。自分の局部であれこれ議論されるとは、主演のマイケル・ファスベンダーさんもなかなか大変なお仕事である。

さて、この映画がメインテーマとするセックス依存症だが、およそ中毒とか依存症というものは、何らかの不安やストレスをを忘れるために、そのものに頼るわけだ。それがお酒だったり、麻薬だったり、この映画の主人公のようにセックスだったりする。

ただ、麻薬と違って強制的に絶つことがしにくいだけに、こちらの治療は難しかろう。また、周囲の理解も得られにくく、いまだに単なるエロ狂いであるとか、セックス依存症同士で付き合えば解決じゃんみたいな、あらぬ誤解を受けることが多い病気といえる。この映画にしても、エロエロなシーンがたくさんあるだろうと、某週刊誌のエロ記事担当の記者と連れ立って、うひょひょ気分で試写室に向かう映画ライターがいたそうだが、まったくもって言語道断な輩である。

そういうろくでもない映画ライターには申し訳ないが、この映画はエロいというよりも悲しい映画である。

一瞬の快楽でストレスを解消するほかない。そんな主人公の生き方は、不毛な消費と再生産をひたすら繰り返す、奴隷の人生のごときもの。賢者タイムにおける罪悪感と戦うことを考えれば、肉体のみならず精神的な負担も甚大なものである。

そしてさらなる副作用として、主人公は本当に好きな女のコとうまくコトをなすことができなかったりする。

そのストレスが極度に達し、ほとんど自殺行為というべき無謀な行為に出るクライマックスは、見ていて涙が出るほどにつらそうである。この場面における主人公の絶頂の表情は、およそ俳優の演技というものの中では最上級なものであろう。

ひとりの人間が、苦しみから必死に逃れようとしている、その防衛の必死さに泣けてくるのである。

アフター5に美女を口説き落とす、そんな能力にたけていても、彼は決して幸せではない。むしろ、人生最大の喜びの一つであるセックスで喜びを得られないというのはとてつもない不幸だ。愛する女性とようやくそのチャンスを得てもうまくできない。だが、それでも彼は相手にあたらない。自分勝手になりきれない優しさが胸を打つ。

これは誰がどう見ても、中毒という病名にふさわしい。セックス依存症の本質を描いた点で、この映画は大いに存在意義がある。セックスによる快感を、人生のプラスアルファのためでなく、猛烈なマイナスを緩和することだけに使わざるをえない。それ程のつらい生き様を目の当たりにして、いたたまれなくなってくる。

映画が「現在」を描くことに注力しているためか、主人公がそこまで落ちた原因についてはさほどの興味がわかないようになっている。それよりも、様々な有名人がこの病名で語られるように、この症状に悩まされている人がとても多い現実、さらにこのキャラクターに共感してしまう自分自身にぞっとさせられる。

セックスに限らず、依存症になるような人間の苦しみを理解できる人のための映画だし、そういう人にこそ見て欲しい、とても誠実な映画である。そんなことを考えながら、週刊誌記者と意気消沈して帰ってきた1日だった。

セックス依存症だった私
出来ればなりたくない病気です。
切られた猥褻―映倫カット史
うーん、紹介したくてもみんな廃版ばかりだ。


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