「ヤング≒アダルト 」80点(100点満点中)
Young Adult 2012年2月25日(土) TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー 2011年/アメリカ/カラー/94分/配給:パラマウント ピクチャーズ
監督:ジェイソン・ライトマン 脚本:ディアブロ・コディ 出演:シャーリーズ・セロン パトリック・ウィルソン パットン・オズワルト エリザベス・リーサー

「JUNO/ジュノ」の奇跡再び

女のコとは自己矛盾の生き物である。忙しくてデートを断れば、私より仕事が大事なのねとキレるし、 また別の日には、あれが欲しいこれが欲しいと高い服を要求する。仕事しなけりゃそんな服も変えない ぞと思うのだが、本人の中では全く矛盾なく二つの要求が存在するらしい。

シャーリーズ・セロン主演「ヤングアダルト」は、そんな自己矛盾に悩み抜いた女のコのお話である。

ミネアポリスの都心でヤングアダルト小説のライターをしている37歳独身のメイビス(シャーリーズ・ セロン)は、わけあって故郷の田舎町に戻ってきた。その理由は、結婚して子供まで生まれた元彼(パ トリック・ウィルソン)を妻子から略奪し、自分が幸せになるためだ。高校時代女王様だった彼女は、 小ばかにしていた故郷の連中がまともな家庭を築き、自分より幸せそうにしているのが我慢ならない。 一方、高校時代からクラスのいじめられっ子で手ひどい暴行により下半身に障害が残るマット(パット ン・オズワルト)だけは、そんなメイビスの相談に親身に乗り、やめろと忠告するが……。

「JUNO/ジュノ」(07年、米)の脚本家と監督が再びタッグを組んだ本作は、「JUNO/ジュ ノ」のようなライトなコメディーである。ただ、この映画をコメディーとして楽しめるのは、すでに幸 せな家族と子供を持っている女性だけ。何しろ、37歳独身女性(子供なし)が、妻子もちの男に無理や り結婚を迫る話である。もし30代後半のカノジョを持つ男性がこれを見たら、コメディーではなくただ のサイコホラーである。

それはともかく、この映画の中には様々な矛盾というか、不相応、ミスマッチ、不釣り合い、そういっ たアンバランスなものが見受けられる。タイトルを見ても、そうしたものがひとつのテーマとして隠さ れているのは明らかである。

例えば、ヒロインが故郷に戻るために乗るマイカーの車種。身長180センチ近いシャーリーズ・セロン にとって、ニューミニはなんとも窮屈そうだ。少なくとも、主人公のような女性にとってこのクーパー モデルはベストチョイスではないだろう。そんな、どこか不似合いな車に主人公は乗っている。

あるいは彼女の普段着についてだが、ハローキティのTシャツにミネトンカらしきブーツを合わせてい る。まるで一昔前のセレブファッション風な、ちょいとズレたこの格好はただただ年齢不相応な印象を 与えている。そんな彼女が妻子もちの男を誘惑する時には、胸元が大きく開いた服を着る。その、あま りものルックスの落差こそが、まさにこの映画の情緒不安定なヒロイン、そしてテーマを表現している。

彼女が故郷の街に着いた時、唯一相談相手となるのが、当時はオタクとして相手にもしなかった同級生 である。片や学園のアイドル。片や学園ヒエラルキー最底辺のオタク。この2人の関係も大変アンバラ ンスなものだ。

しかし、そうした相反する二つの要素要素の中に、共通項があることが、物語が進むとやがて明らかに なる。この映画は、そうした構造の繰り返しとなっている。

女性の中に必ず存在する自己矛盾。そうしたものに悩み抜いたヒロインに、最後に訪れる意外な結末。 それは、この映画をコメディーとして見ていた幸せな奥さんも、ホラーとして見ていた男性も、そして 主人公と同じく30代後半の不幸な女のコも、みな涙を流すであろう素晴らしいものだ。

ある意味ショッキングなラブシーンも、完全に病気レベルといってよい主人公の描写も、すべてはこの 感動的なラストシーンのためにある。一つも無駄な描写はなく、極めて計算高い演出である。あれ程あ っさりしたラストだというのに、この物語が伝えたいことがしっかりと伝わってくる。

なにしろこの物語は、非常に危ういバランスで成り立っている話である。例えばもし、ヒロインが誰が 見ても本当にイタイ女性であったならば、このラストは成立しない。衰えたとはいえ、シャーリーズ・ セロン演じるヒロインは今でも超がつく美人であり、魅力的な女性である。この絶妙なバランスを、シ ャーリーズ・セロンが演じ、表現できたからこそ、この作品は傑作となった。

彼女が演じる序盤のベッドシーンと、ラスト近くのベッドシーンが対比となっており、同じ感情を暗に 示している点など、ジェイソン・ライトマン監督の演出家としての力量も高い。適度に笑いを振りまき つつ要所はしっかり締めて泣かせるセリフまわしは、ディアブロ・コディ脚本のたまものか。

「JUNO/ジュノ」がそうであったように、監督、脚本家、主演女優の誰が欠けてもうまくいかなか ったであろう作品。「ヤングアダルト」は、その奇跡のコラボレーションが再びうまくハマった傑作で ある。

ヒロインと同じく、自分は不幸かもしれないと薄々感じながらも、しかし絶対に負けは認めない、そん なガラスのプライドを守り続ける愛すべき女性たちに、この傑作ドラマを強くすすめたい。それと、そ うした女性に言い寄られ窮地に立っている男性にも。



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