「TIME/タイム」90点(100点満点中)
IN TIME 2011年アメリカ/109分/FOX 2012年2月17日(金)TOHOシネマズ 日劇他にて全国ロードショー
監督・脚本:アンドリュー・ニコル 出演:ジャスティン・ティンバーレイク アマンダ・セイフライド アレックス・ペティファー キリアン・マーフィ

資本主義の諸問題を皮肉る秀作

日本でSF映画というと子供向けのイメージがあるが、海外には大人の鑑賞に堪えるものがたくさんある。「TIME/タイム」はその最たるもので、その出来はすこぶる良い。おそらくあらすじを聞いただけでほとんどの人が見てみたい、となるのではないだろうか。私の周りでも、普段はこうしたジャンルに興味を示さない編集者が、ストーリーを説明した途端見てみたいと即答したり、じっさい普段はこの手のジャンルを取り扱わない媒体で紹介したりもしている。

寿命をコントロールできるようになった近未来。人類は遺伝子操作により25歳で成長がストップし、そこから等しく1年間の寿命が与えられるようになっている。その結果、通貨としての金銭は無くなり、代わりに人々は「余命」をやり取りして経済活動を行っていた。スラム地区に住むウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)は、目覚めると常に余命残り24時間を切っているほどの「貧困者=時間無し」だが、困っている人を見ると惜しげなく余命を分け与える優しい男。そんな彼が、あるとき自殺志願の大富豪から100年単位の余命を譲り受けた事から、運命の歯車が大きく変わり始める。

世界感や設定を聞いただけで楽しそうと思える作品は、間違いなくいい企画である。ただし、そうした企画に十分な予算がつき、一流の人員を割くことができる国はそう多くはない。アメリカの映画業界は、そうした真っ当なことをやっているからこそ、世界一でいられるのである。「TIME/タイム」のような映画を見るたびにそう思う。

この映画の見所は多い。たとえば男性にとっては、主人公が金持ち地区で出会うお嬢様役アマンダ・セイフライドの水中ヌードであるとか、思ったよりも大きな横ムネであるとといった事項がまず挙げられよう。──が、実際にはそのあたりを抜きにしても抜群に面白いのである。

アマンダさんの豊乳がかすんでしまうほどの面白さとは何か。当然のこと、魅力的なストーリーと設定である。

主人公は長大な余命をゲットした後、防壁で囲まれた富豪地区へと向かう。スラム地区では数週間の余命を持っているだけで命を狙われる。腕を接触させるだけで相手の余命を奪えるシステムだから、平気でそんな「強盗」が多発する。なぜか政府等は簡単にできそうな防護策を講じる気配もない。そこも大事なポイントだ。

さて、富豪地区で主人公が見聞きするもの。そこがこの映画のキモである。あまりにおもしろすぎるのでこれ以上の説明はしない。ぜひご自身で確かめてほしい。

買い物などのときは、人間 Suica のように腕に示された残り時間を読み取り機にかざし、ピピッと清算する。こうしたシーンで分かる通り、言うまでもなくこの映画の中の時間とはお金の比喩である。だから残り少なくなると人々はとても焦るし、怒りっぽくもなるし、そうした人々が集まる地域は治安が悪い。そして、運悪く残りがゼロになった途端、即死するのはご愛嬌である。現実世界でも持ち金がゼロになれば、遅かれ早かれ人は同じ運命をたどる。

これは、アメリカが提唱・実践するところの「資本主義」なるものを皮肉った、極めて知的な作品である。主人公に大金=余命を分け与える富豪のセリフがなんとも心に残る。「物価と金利を同時に上げるのはなぜか?」このあとに続くセリフには、思わずハッとさせられた。最近のアメリカ映画はアンチ資本主義のテーマが流行中であり、これはその最先端を行っている。

時間=金、すなわち時は金なり。それを映像化した本作は、極めて示唆に富んでいる。なぜならば、今世界は資本主義の崩壊局面を迎えているとも言われており、この映画がラストで示す結論は、そうした世の中の議論に対して大きなインパクトを与えるものだからだ。

この映画を見ていると、やがて観客はおかしなことに気づくだろう。給料や、物の価格という形で時間をやりとりできるのであれば、時間を何処かでたくさん生産し、それを分け与えれば全ての格差や貧困問題が解決するのではないだろうか?

これは、この映画がSFであり、「時間」という身近な形で「通貨」というものを解説しているからこそ抱ける(きわめて重要な)疑問である。経済学はややこしいものだが、通貨を「余命」にたとえた途端、誰にでも理解できる形で、その真実を私たちに明らかにしてくれた。すぐれたアイデアといえよう。

1万年、10万年もの、尽きることのない余命を持っている人間がいるのに対し、スラム地区の主人公などは毎朝余命が24時間未満である。この究極の格差社会はなぜ生まれたのか。なぜこんなにも格差があるのか。この格差で、誰かが得をしてるのではないか。では、そもそもどうやってこの格差を作り出しているのか。

そうした、今人々が最も気になる資本主義の暗部、根本的な疑問に対し、この映画は明快な回答を提示する。

主人公がラストショットで何処に向かうか。そこに全ての答えがある。これは、ある種のタブーであり、経済学を学んでいない人々も知るべき真実である。誰もが楽しめるエンターテイメント作品で、現在の不況、格差社会の核心をつく結論をそれとなく提示する。こんな離れ技をやってのけるから、ハリウッドはすごいところである。

主人公が終盤に叫ぶ真実の叫び。それは非常に思わせぶりだ。彼は不老不死を求めちゃダメだと語る。だがそのあとに、ただし書きを付ける。そこがポイントだ。一体何が大切で、何をすればこの資本主義のほころびを直すことができるのか。この世界的不況のなか、ヨーロッパも、アメリカも、日本も答えを見いだせない疑問に対し、本作は果敢にチャレンジする。

サスペンス・アクションとしても平均以上で、特に主人公が長年暮らしたある人物との別れはドラマチックである。とてつもない時間単位を賭けるポーカーシーンも迫力がある。文字どおり命がけのギャンブル。表情一つ変えずその勝負に挑む主人公の姿は、ほとんど尊敬の域に達する。

富の再分配が機能していない現在、主人公が目指す理想郷は実現できないようにも思える。しかしそんなことはないと信じたい。とにもかくにも、久々に深読みしがいのある、見事なエンターテイメント作品であった。

 
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