『マイウェイ 12,000キロの真実』40点(100点満点中)
MY WAY 2012年1月14日(土) 日本公開 2011年/日本/カラー/145分/
監督/脚本:カン・ジェギュ 出演:オダギリジョー チャン・ドンゴン ファン・ビンビン

≪ここまでしなくてはダメなのかと絶望≫

『マイウェイ 12,000キロの真実』は、韓国映画界が総力をあげた超大作であり、向こう2年はこのクラスの大作は無いと関係者が言い切るほどの勝負作である。宣伝攻勢も相当なものだから、どこかでタイトルを見かけた方も多いだろう。

しかも、彼らが描くのは戦争中の旧日本軍将校の半生。よりにもよって、韓国映画が日本軍を描くとは、何かが起こりそうな予感がぷんぷん。ドキドキわくわく、韓流ウォッチャーにとっては見逃せない、そしてその期待にそぐわぬ話題作であると、ここに保証しよう。

1928年、日本統治時代の京城(現在のソウル)。裕福な日本人一家の息子、長谷川辰雄は、使用人の息子ジュンシクと出会い、やがて長距離走のライバルとして成長する。彼らはその後、のちに日ソの激戦地となるノモンハンで再会するが、そのとき辰雄(オダギリジョー)は日本軍の将校、ジュンシク(チャン・ドンゴン)はその部下という立場であった。

カン・ジェギュ監督は韓国映画界のエースで、かつての「シュリ」(99年、韓)と同じように、この映画でも韓国映画史上最大の製作費(20億円超とされる)を任された。プライベート・ライアン顔負けの戦闘シーンの迫力は、そうした予算規模を上回るもので、戦争映画としては十分世界に通用する映像クォリティに仕上がっている。さすがは「シュリ」で実銃を使ったアクションが評判になっただけのことはある。

この監督はプロデューサー的な考え方のできる人で、今回の来日時に私が彼から聞いた話では、この映画の脚本は日韓の一般人数十人ずつにモニターしてもらい、歴史認識などの面で自由に意見を言ってもらったという。そのうえでバランスを取ったストーリーに仕上げたと、そういう話であった。韓流などという言葉が生まれる前から日本に韓国映画ブームを巻き起こした、真の実力者といってもいいカン監督だが、日韓の間の溝というか、微妙な空気については重々理解している様子であった。

しかし、それでも本作は公開前から日韓ともに論議を巻き起こした。予告編に出てくる世界地図に英語で「日本海」と記載してあったことで韓国内から猛烈なバッシングを受け、急きょ修正したのはすでに報じられた通り。

しかし映画を見てみれば、むしろ日本人こそが首をひねってしまうようなトンデモ描写だらけで、実話から触発されて作ったとは思えないほど。歴史映画の範疇に入れるのもどうかというレベルだ。

たとえば主人公の一人、ジュンシクが日本軍に入隊したきっかけは、国内で起こした不祥事の、いわば懲罰。「レイシスト集団の帝国陸軍の最底辺で虐待され、おまけに最前線で戦って死んで来いヒャッハー」というわけである。劇中では強制連行されて軍に入った、というような言い方もされている。

だがこの映画で描かれるノモンハン事件時には、朝鮮人への徴兵制度はまだ事実上、運用されていなかった。それが行われるのは終戦間際になってからだ。「日本で悪いことをした朝鮮人を懲罰として陸軍に無理やり入隊させ最前線に送る」などというのは、妄想はなはだしいメチャクチャである。

こういう事を堂々と「実話をもとにした」「韓国映画史上最大の」超大作でやられると、場合によっては本当にあった事だと信じてしまう人もいると思われ、少々心配になる。日本軍に参加した朝鮮人兵士の多くは志願兵であり、将校になった者もいれば特攻隊で散った者もいる。「無理やり連れてこられた論」をぶつということは、家族を守ろうと命を懸けたそうした祖先たちの行為を踏みにじることにもなるわけだが、韓国人はそれでいいのだろうか。

日本軍描写についてもトンデモ度は高い。公開切腹やら、39年の段階でレイプ集団と化していた関東軍など、ほとんど冗談のような光景、証言が繰り広げられる。

こうした数々をみれば、よほどこの監督は反日的なのかと思い込む日本の観客も多いだろう。直接会って話をしてきた印象の限りでは私はそうは思わないが、その代わりに感じたのは、韓国の観客を納得させるためには、ここまで考証をねじまげねばならないのかという絶望である。これほど日本と日本軍を極悪非道に描かないと納得しないのだとしたら、彼らと冷静な話をすることなど到底できるとは思えない。韓国人は外に出て、まともな歴史の教科書で学ぶべきだ。そんな風に思ってしまう。

主軸となる、日本人と朝鮮人の、最初はいがみ合っていたものの最後は友情で結ばれるドラマも、この歴史描写では台無しである。監督が本当に描きたかったのはこちらなのだと思うが、日韓に中立的な描写ができない今の韓国社会の偏向ぶりが、彼の演出の腕を縮こませてしまった。この映画は韓国資本100パーセントだが、もし韓国以外で同じ映画を作ったならば、ここまでひどくはならなかったのではないか。ここまでやっても、東海と表記しないだけで売国奴のようにののしられるのだから、気の毒としか言いようがない。もうカン監督はさっさと国内に見切りをつけて、外国に出たほうがいい。

日本から多数参加したキャストのうち、オダギリジョーはチャン・ドンゴンや監督を差し置いて最初にクレジットされるほどのVIP待遇。撮影現場でのいろいろなエピソードも聞いているが、どうも不愉快な話が多い。現代風の髪型のままというのは、エンターテイメント作品ということで他の役者も同様なのでまだ許せるが、面倒くさそうに記者会見をしたり、妙なサインをしたりと、大切なお客様の前でもおかしな行動ばかりが目につく。みょうちくりんな歴史映画に出演させられたことへの抗議の表明……ということはさすがにないか。あれでは周りを不快にするだけだ。プロらしくファンサービスに徹したチャン・ドンゴンと監督らの態度にくらべ、みっともないことこの上ない。

ブラザーフッド プレミアム・エディション [DVD]
二人の人間のドラマ、というパターンが多いカン監督。
日韓がタブーにする半島の歴史 (新潮新書)
タブーではありながら、これだけ予算がつくというのは……。


連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.