『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』40点(100点満点中)
El Bulli: Cooking in Progress 2011年12月10日(土)より、銀座シネスイッチほか全国ロードショー 2011年/ドイツ映画/カラー/カタロルーニャ語、スペイン語、フランス語/113分/35mm/ドルビーデジタル/1:1.85/日本語字幕:佐藤真紀/字幕監修:服部幸應・結城摂子 配給:スターサンズ/ドマ
監督:ゲレオン・ヴェツェル 出演:フェラン・アドリア オリオール・カストロ

≪食感も味も想像できないワンダフルな料理の数々≫

料理のうまさは直感頼りとか、センス次第と考えられることが多い。確かに料理上手は最初からそこそこ上手く、料理下手は何年続けても下手なままである。家庭では奥様が担当することが多かろうが、頭のよい女性が必ずしも上手いわけでもなければ、美人がうまいわけでもない。もっとも、かわいい女の子が作った料理をその整ったお顔を見ながら食べると例外なく美味しいような気もするが、それはおそらく気のせいである。

だが、そんな考えを根底から打ち砕くのがスペインの料理人フェラン・アドリア。世界最高のシェフの一人と評される彼の料理は、徹底した科学的裏付けのもとに成り立っている。料理を科学的に分析する手法は古くからあり、プロは多かれ少なかれ意識しているもの(塩より砂糖を先に入れる理由を科学的に説明できない料理人はいまい)だが、アドリアはあらゆる道具や添加物を使い、想像もしない触感、味へと食材を生まれ変わらせる。とくに、亜酸化窒素を使って食材をムースに加工するエスプーマの技術は彼が発明したものであり、それは長年の科学的分析・研究の成果そのものである。

そのフェラン・アドリアのラボとでもいうべき、様々なアイデアの具現化を楽しめるレストランが「エル・ブリ」。スペインのカタルーニャにかつて存在したこのレストランは、45席に年間200万件の予約希望が入る「世界一予約が取れない」店。『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』は、その厨房の舞台裏とフェラン・アドリアに迫るドキュメンタリーだ。

基本的に音楽は控えめ、説明やナレーションはなく、淡々とレストランの様子を映すのみ。その年のメニュー作りから、新人を鍛える様子など、「世界一」から何かを盗みたい料理人の方が見れば、きっと何かしら得るものがあるだろう。

ただ、お客さん側から見るとどうだろう。もくもくとけむりたつ液体窒素の容器が厨房に鎮座し、食品添加物も使って固いオリーブを液体状にしたりなど、到底料理をしているようには見えない。食べ物で遊ぶなとよくいわれるが、この映画に出てくるエルブリの厨房や研究室は、小さな子供がその発想を自由に試しているようにさえ見える。みようによっては貴重な高級食材をひねくりまわしているわけで、少々気持ちが悪い。

延々とそんな開発風景が続くので単調でもある。似たようなシーンが多すぎるために退屈感を感じる。一般人にとってこういう題材は、テレビのバラエティ番組のようにあおりまくる演出で見るくらいで丁度いい。

最後には、苦労して開発したコースメニューが数十品登場するが、驚くべきことにただの一つも食べてみたいと感じるものがない。アドリア自身、美味しさ以上に驚きを追及しているので当然といえば当然だが、これを年間200万人が求めるというのだから驚かされる。

もっとも名古屋名物の喫茶マウンテンも盛況だし、金持ち美食家のための甘口いちごスパだと思えば、納得できなくもない。一生に一度くらいはこんなレストランに行ってみても……いや、別に行きたくはないか。

とはいえ、エル・ブリ自体はすでに休業し、あらたなアドリアの世界観を実現する新店への準備期間に入っている。まだこれ以上の仰天料理を作るつもりとは、フェラン・アドリアおそるべし。

エル・ブジ 至極のレシピ集―世界を席巻するスペイン料理界の至宝 (世界最高のレストラン―スペイン編)
家庭で作ってみたい人はどうぞ。料理上手な女の子にプレゼントしてみるか??
これでいいのか愛知県名古屋市 (日本の特別地域特別編集)
マウンテンには行ったことがありますが、ゲテモノ系は同行の方に任せました。生クリームとか無理。


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