『人喰猪、公民館襲撃す!』5点(100点満点中)
Chaw 2011年10月22日(土)より、シアターN渋谷にてモーニング&レイトショー他全国順次公開 2009年/韓国映画/カラー/上映時間 121分/ドルビー・デジタル/韓国語 配給:キングレコード
監督・脚本:シン・ジョンウォン 音楽:キム・ジュンソン 出演:オム・テウン チョン・ユミ チャン・ハンソン ユン・ジェムン

≪デモが起きかねない出来栄え≫

『人喰猪、公民館襲撃す!』は韓国映画界が総力を挙げて送る動物ホラー&パニックムービーで、この 秋日本でも大反響を巻き起こすこと確実な超大作エンタテイメントである。

──というのはもちろん嘘で、実際は少なすぎる予算と乏しいアイデア、俳優たちのしょぼくれた演技 力と素っ頓狂な脚本を楽しむための、俗にいうC級映画である。

ソウル郊外の平和な過疎村で、若い女性の惨殺死体が発見される。その祖父で元凄腕の射撃手チュンに よれば、これは殺人事件ではなく獣の仕業だという。週末に予定していた観光農業を中止すべきだと進 言するが、金に目がくらんだ村長は耳を貸さない。だがその傲慢さが、村にさらなる悲劇を巻き起こす のだった。

日本側が『人喰猪、公民館襲撃す!』の配給権をどういう経緯で買い取ったのか、あるいは買うハメに なったのかは知らないが、完成版を見たときの宣伝会社の精鋭社員たちの反応は容易に想像がつく。

「これはもう、どうやっても無理ですよ」と。それに対し、もうやけくそで煽りまくれとの冷静な決定 をおそらく下したであろうプロジェクトリーダーの判断は、圧倒的に正しい。「ピラニアの次はイノシ シだ!!」などと他作品にぶら下がった宣伝コピー、映画史上もっともちっぽけなスケールのスペクタク ルを具現化した邦題など、見ているだけで笑える宣伝技法にはある種の才能を感じさせる。

映画が趣味の人ならば、これだけで中身がどの程度のものか想像がつく……というよりここまでくると 「こっちも苦しいんだ、わかってくれよ」との悲痛なメッセージのようなものである。となればここは 暗黙の了解、アイコンタクトでニヤリと笑って彼らが徹夜でひねり出した煽り文句の数々と本編のギャ ップを楽しむのが大人の映画ファンのやり方といえよう。

そうした前提でみると、『人喰猪、公民館襲撃す!』はなかなか見どころが多い。ハリウッドから招へ いしたスタッフの力であろう、CGイノシシだけはいい動きをしているが、その努力を無にするほどのグ ダグダな脚本。また、韓国人には受けているのかわからないが、クスリとも笑えないとぼけたギャグの 数々も、秋だというのに冷房効果満点の出来栄えだ。

結論として、この映画で一番おもしろいのは明らかに邦題であり、いっそそこから企画を初めていれば 良かったと思うほどだ。しょぼい公民館に村人がのどかに籠城するような話のほうが、はるかにカルト 的な意味で良くなっただろう。

しかし、この邦題はあくまで日本の映画会社が考えたものであって、実際の映画はなんの美も変哲もな いド田舎で、魅力ゼロのインチキな搭乗人物たちが右往左往するだけの退屈な話である。

唯一の魅力となるべき怪物イノシシも、いっそ15メートルくらいデカくすればよかったのだがどうも中 途半端。怪物映画としては致命的なことに、この映画からはイノシシへの愛が感じられない。だからイ ノシシのキャラが立っていない。

ただし、その巨大イノシシが誕生したきっかけについてだけは高い評価を与えたい。なぜなら、ここで 唐突に日本が登場するからである。韓国の災厄はすべて日本のせい。やはり韓国映画はこうでなくては ならぬと、ここで私は思わず快哉を叫んだ。

映画の出来栄えは最悪だが、それでも見る価値がある。映画というジャンルの、これが奥深いところで ある。



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