『モテキ』75点(100点満点中)
2011年9月23日(金・祝)全国東宝系ロードショー 2011年/118分/日本/配給:東宝
監督・脚本:大根仁 原作:久保ミツロウ 出演:森山未來 長澤まさみ 麻生久美子 仲里依紗 真木よう子

≪TVドラマの映画化だが、ちゃんと映画らしさを持っている≫

『セカンドバージン』の記事で明らかにした問題点について、『モテキ』は相当頑張ってその高いハードルを越えてきた。

そもそもテレビドラマの映画版というものは、今まで無料でみられた作品にわざわざ1800円もの入場料を観客から直接とろうというものだ。

だから監督は、テレビ時代とは違って(番組のスポンサーではなく)観客を喜ばせるものを作らなくてはならない。お金を払うお客さんの感覚というのは鋭敏なもので、自分たち以外のスポンサーに気兼ねするような空気を感じれば一瞬でしらける。『セカンドバージン』はその点が下手だったが、『モテキ』は抜群に上手かった。だから私は高得点を与えるのである。なおこの段落の文章について、長澤まさみが見事なエロ演技を見せていたから誉めているわけでは決してない事を最初に申し上げておく。

31歳のさえない独身男、藤本幸世(森山未來)は、あれほどのモテ期が到来したというのに結局恋人と添い遂げることもできず、セカンド童貞を続けていた。だが転職したとたん、再びモテキが到来。ツィッターで知り合った美人編集者(長澤まさみ)とはトントン拍子でいい関係になり、彼女の友人の年上OL(麻生久美子)ともいい感じに。だが世の中、そう簡単に幸世の妄想通りには進まないのであった。

モテキ(モテ期)とは、嘘のようにもてまくる期間のこと。モテ期以外を経験したことのない私にはわからないが、どんな男にも一度はやってくるといわれているらしい。

今回は映画版ということで、主人公のモテキも桁外れにすごい。大本命に長澤まさみ、エビオス嬢も苦笑しそうなウザめの熟女OLに麻生久美子。適切なアドバイスをくれるホステス役に仲里依紗、サディスティックな上司に真木よう子と、すさまじいラインナップである。

もし、日本の女優を4人集めてハーレムをつくれといわれても、これ以上の4人はなかなか思いつくまい。とくに、バスト周辺の個性に同系列なタイプを集めたあたりが心憎いセレクションである。なお、こんな妄想をすること自体がとても気持ち悪いと自覚はしている。

それはともかく、清純派の誉れ高い殺人級笑顔の長澤まさみが、この作品ではエポックメイキングといっていいほどの役柄を演じている。巨乳よばわりされて谷間にカメラが寄りまくり、誘うような濃厚な糸ひきキスをして、おまけにあんな下ネタTシャツまで着てしまう。かつては隠れ巨乳としてその抜群のスタイルをなるべく人目につかぬよう封印していた彼女が、よもやこんな汚れ役を嬉々として演じるとは、まさしく衝撃以外の何でもない。

しかも、コクリコ坂を転げ落ちそうな、女優として決して上昇気流とは言えぬ今、そうした役柄を演じているのにまったく落ち目感がない。これはいよいよ本格的にレンジブレイクを果たした証明か。もし本作がヒットすれば、次はいよいよ──といった期待が高まる。

本物の女優は脱いでも価値を落とさない。長澤は、現在の若手女優ではほぼ唯一、確実にそのオーラを持っている逸材だ。そのあたりをよく自覚して、関係者各位は彼女を育てていくよう。

さて、そんな日本映画界なでしこジャパンというべきトップ4人と対峙する森山未來の独白の面白さも相変わらずで、これだけの美女が「好きよ、抱いて♪」と来ているのにグダグダと前に進めないもどかしさ、童貞臭さを適格に表現。その痛々しさ、情けなさはことごとく爆笑を誘い、試写室の客席もにぎやかであった。

リリー・フランキー演じる対照的なチョイワル上司も、表現しようのないクズ人間っぷりをうまく表現。会社全員で主人公をバカにするあるシーンの面白さは相当なものがあった。この映画、なかなかの芸達者がそろっている。

もっとも『モテキ』の面白さは、タイトルに反して上手くいきそうなフラグつぶしの快感にもあるわけで、個人的には終盤の展開には不満が残った。あまりに平凡すぎて、それまでの演出の好調、テンポ良さとバランスが取れていない。作り手がシリーズキャラクターに思い入れを持ちすぎてはダメという、これは悪い見本のようなエンディングである。ここをあえて落としてこそ、一歩高みに上がれたのだが実に惜しい。

それでも『モテキ』は、日本映画としてはトップクラスに面白いコメディー作品であり、カップルがケラケラ笑いながら見るのに適している。または、なんとか落とすきっかけがほしい美女を連れて行くのにもピッタリではないかと私は判断する。

なお、もしこのアドバイスを受けて上手くいった関係者諸氏がいたら、お礼にモテキ記念合コンを開催して必ず誘うように。



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