『うさぎドロップ』55点(100点満点中)
2011年8月20日全国公開 2011年/日本/カラー/1時間54分/配給:ショウゲート
原作:宇仁田ゆみ 監督:SABU 脚本:SABU 林民夫 出演:松山ケンイチ 香里奈 池脇千鶴 芦田愛菜 木村了 キタキマユ

≪人気キャストによるイクメンムービー≫

予期せぬ子育てを引き受ける中年男の物語は、チャップリンの昔から数多くあるが、そうした流れの中で『うさぎドロップ』はかなりの薄味で、物議をかもした原作の実写化としてはやや物足りない。

27歳のダイキチ(松山ケンイチ)は祖父の葬式のさなか、祖父の6歳の隠し子と初めて対面する。その娘りん(芦田愛菜)のことは親類一同誰も知らなかったようで、みな戸惑うばかり。その場で始まった親類会議でりんを押し付けあう大人たちの身勝手さに、思わずダイキチは自分が引き取ると宣言。だが突然はじまった育児生活は、働き盛りの独身会社員であるダイキチにとって、想像以上に過酷なものだった。

原作第一部のみを映画化したものなので、コンセプトはほのぼのイクメン話といったところか。もっともそうした、ハリウッドのシチュエーションコメディのようなライトなエンタテイメント映画に個性派のSABU監督というのは明らかにミスマッチで、この映画もなんだか中途半端な、目指すところがぼやけた薄味な印象になっている。彼を監督にするならコンセプトを変え、衝撃の原作ラストまで持っていったらよかったのに、なんだかやっている事がよくわからない。

ともあれこういう作品になったのだから、とりあえずほのぼのイクメン感動話として批評をするが、途中で思いつきのような妄想ダンスシーンが延々挿入されるなど、合理性より作家性を優先しがちな、いかにも邦画らしい煮え切らない出来。このコンセプトならこうした演出は不要である。作る側ではなく、見る人の満足を第一に考えて作ってほしい。

とはいえ監督も育児中ということで、育児がもたらす様々な「変化」をうまく表現できている。なんてことない迷子体験が、この世の終わりくらいに親に心配をもたらす場面であるとか、これまで何気なく乗っていた満員電車で唐突に感じる孤独感、不安などをうまく描いている。若いご夫婦など、子育て中の人がこれを見たら、多くの共感ポイントがあろう。

子供ができて、結局ダイキチは職場さえも変えることになるが、このあたりも大事なポイントだ。子供を育てるということは、大きな犠牲を払う覚悟が必要なのだが、そういう「当たり前」を堂々と伝える教育が、この国には存在しない。

そうした多大な変化・犠牲を受け入れ、乗り越えることで、それ以上に大きなリターンを得られる、それが子育てというものだ。だから勇気をもって、親たちは変わらなくてはならない。それを理解していない「こども親」が、子供たちを不幸にさせる。そういうことをこの映画から学び取る人がいたとしたら、本作は大いに存在価値がある。

親たちに強いられる変化は、ときに深刻な場合もあるが、それでも上記のように肯定すべきことなのだから、笑いとして描くべきである。その点本作は、まだまだそうしたコメディー要素が足りない。原作二部まで含めた別テーマの映画としてならともかく、「家族と育児」を主題にするなら、ここは不満が残るところ。

共感はできるが満足度は低め。相対的に判断するとそんな感じである。もっとも大ブレイク中、芦田愛菜ちゃんのかわいらしい笑顔を見ていればそれで十分という、はたからみると少々気持ち悪い大人ファンにとってはその限りではない。

うさぎドロップ (1) (FC (380))
原作。最後まで読むと……。
「ほめない子育て」で子どもは伸びる
えー。


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