『カーズ2』30点(100点満点中)
CARS 2 2011年7月30日、全国公開(TOHOシネマズ日劇他) 2011年/アメリカ/カラー/113分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
監督:ジョン・ラセター 共同監督:ブラッド・ルイス 音楽:マイケル・ジアッチーノ 声の出演:ラリー・ザ・ケイブル・ガイ オーウェン・ウィルソン ボニー・ハント

≪消費者は媚びなど必要としない≫

前作「カーズ」はピクサー作品の中でも屈指の傑作であり、いくら商売的にさほど振るわなかったとはいえ、続編を作りたくなる気持ちはよくわかる。しかしその『カーズ2』は、明らかに失敗作。ピクサーの実力は疑う余地がないが、その彼らでさえこんなミスを犯すのかと、違った意味で感心させられた。映画作りは本当に難しい。

人気レースカーのマックィーン(オーウェン・ウィルソン)は、ライバルからのあおりもあっていよいよワールドグランプリに挑戦することになった。おんぼろレッカー車ながら親友のメーター(ラリー・ザ・ケイブル・ガイ)をピットクルーに引き連れ、最初の開催地東京へと向かったが、のどかなラジエータースプリングスの町しか知らないメーターは大都会では失敗の連続で、マックィーンの足を引っ張るばかり。二人の友情にもほころびが生じる中、彼らは偶然出会った英国のスパイたちの騒動にも巻き込まれてしまう。

併映の短編は「トイ・ストーリー3」の後日談のような内容。先にこちらを見た瞬間、私は嫌な予感がした。あんなに完璧なラストに、その感動の涙も乾かぬうちに余計なエピソードを付け加える制作陣のセンスを疑ったし、おまけに出来が悪い。蛇足という言葉がこれほど似合うものはない。

なぜこんな短編がくっついているかといえば、その目的は一つしかない。「今日これから上映する2本の映画は、あくまでファンサービスのために作ったものですよ」という宣言である。カーズのファン、あの車たちのファンを喜ばせること。それが主目的だってことをわかってね、と説明してくれているわけだ。

実際カーズ2の本編の内容も似たようなもので、車たちがスパイアクションを繰り広げる子供だましなもの。もっとも子供のための映画なのだから、子供というには少々お年を召した私あたりが文句を言う筋合いはないが、ピクサー映画の魅力とはこんなものではないはずだ。これではフィギュアを売りたい某大手キャラクタービジネス企業のごり押しで作ったように思われてしまうではないか。

そもそも前作が高く評価されたのは、子供でも楽しめるシンプルなストーリーの背景に、現代アメリカの抱える社会問題を憂うる視点があり、社会派としての太い背骨があったためである。子供とは違った見方で、大人が楽しめる。親たちの鑑賞に堪える出来だったわけだ。

しかしこの続編は、あの田舎町の仲間が世界に出て大活躍するという、ただそれだけ。ファンなら痛快感を感じるでしょうと、そんな安直な内容になっている。こういうものは、本家ディズニーのビジネスモデルを見習って、DVDスルーにしておけばいいのに困ったものだ。石油メジャーとエコ企業の裏のつながりなども絡めてはいるが、いかにもとってつけだしネタが古すぎる。評価はできない。

なお本作は日本が舞台として登場するが、これも残念すぎる出来。たとえば秋葉原や新宿などの町並みはネオンが光り輝き、電脳都市っぽさを強調しているが、ご存じのとおり今東京は必要もない計画停電の脅しによって無理やり節電モードになっているので、映画との落差にはしらけるばかり。

車キャラが繰り広げる相撲シーンにしても、現実は八百長問題で場所が中止になったりしているわけで、間が悪いことこの上ない。あげく、3Dで華々しく演出された歌舞伎座前のレースシーンも、東銀座にあったあの建物は建て替えのためすっかり取り壊されていまや基礎工事中だ。これらは何かのブラックジョークかよと、ことごとく苦笑せざるを得ない。

全自動トイレのパロディもすべっているし、どうも今回のピクサーはおかしい。

これは要するに、ファンサービスというものを彼らが誤解しているからに他ならない。この映画でやっている事は、ファンサービスが行き過ぎてただの媚びだ。本当のファンサービスとは、クォリティの高いものを作ることである。それこそが彼らの本分であり、また他社がまねできない最大の長所なのだから、しっかりと肝に銘じておいていただきたい。

浅いリサーチと安直な媚びだらけのこんなファンサービスは要らない。普段がハイレベルだから手抜きをすればすぐにわかる。こんな安直続編や媚び短編を作っているようでは、彼らの王座も危うい。これを読んでいるピクサーの重役たちよ、次回はこの10倍くらい脚本を練りこんで、オリジナルの深いストーリーを武器に戻ってきなさい。ここに強く指示しておく。

カーズ [DVD]
前作。これは見る価値あり。
聡明な女は媚びず、甘えず、諦めず。―女性が仕事をずっと続けていくために
仕事を続けていく前提というところが泣かせる。


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