『ロシアン・ルーレット』70点(100点満点中)
13 2011年6月18日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー 2010年/アメリカ/97分/カラー/シネマスコープ/DOLBY DIGITAL/字幕翻訳:川又勝利/提供・配給・宣伝:プレシディオ
監督・脚本:ゲラ・バブルアニ 撮影:マイケル・マクドノー 出演:サム・ライリー ジェイソン・ステイサム ミッキー・ローク カーティス・“50 Cent”ジャクソン

≪面白いが一味足りない≫

『ロシアン・ルーレット』は、本物の銃と実弾でロシアンルーレットをするという、ただそれだけのアイデアが97分間続くシンプルな映画である。そういえば最近日本にも放射能健康論を押し付ける人たちがいるが、あれなどは福島の子供たちに自動拳銃でロシアンルーレットをやらせるようなものである。この映画に出てくるギャンブルバカとも互角に戦える逸材といえるだろう。

父親の入院加療費で家計が逼迫する中、青年ヴィンス(サム・ライリー)は謎めいた儲け話を耳にする。思わず大金を手にできる会場への招待状を盗み出した彼は、その指示通りに森の中の屋敷に到着する。だが彼はそこで自分の浅はかさを後悔することになる。そこは17名の参加者のロシアンルーレット対決に、富豪たちが大金を賭ける秘密の賭博場だったのだ……。

たくさんお金を持っていれば、若者たちに命を賭けさせる遊びくらい見てみたくなるだろうという、たぶんに無茶苦茶な偏見に満ちた設定がまず笑える。スナッフビデオの都市伝説に代表されるこうしたホラ話は、金持ちの心理など想像もできない貧乏人にとって妙にリアリティがあるわけだ。

『ロシアン・ルーレット』の場合、コメディー要素ゼロのガチンコサスペンスだから、いかにばかばかしさを排除できるかが勝負。その点本作はうまくできていて、とくに序盤の「屋敷までのオリエンテーリング」の出来がよい。緊迫感を感じさせると同時に、主催者側が用心深いプロであり、このイベントを開催し慣れている事がわかる。この過程を経ることで、観客もすっかりこの世界観に引き込まれ、そして恐怖することになる。

みんなで輪になって行うこの集団ロシアンルーレットの恐ろしいところは、自分が死ぬだけでなく場合によっては殺す側にもなるということ。撃たれるより引き金を引けるかどうかが問題だよなあと、誰もが思うところだが、それをうまく表現した主演サム・ライリーの演技力はなかなかのものだ。

ところで本作のキャッチコピーは「勝率1パーセント」。17人の中で勝てばいいんだから17分の1だろと一瞬思ったが、考えてみたら最初の1回で全員死亡するパターンもあったりするので、実際勝ち残る確率はきわめて少ない。宣伝会社の人は大勢の専門家に計算してもらったといっていたから、きっと1パーセントというのは本当なのだろう。はたして主人公はその狭き門をくぐれるのか?

アイデアは面白いが、残念なのはルールが厳格すぎて知恵を働かせる余地がほとんどない点。こわもての参加者や老練な策士などが出てくるが、しょせんは運試しなのでキャラクターが立つ展開になりにくい。

結局、ロシアンルーレット以外の部分、序盤のオリエンテーリングや終盤の逃亡劇で足りないスリルを補うほかなく、せっかくのアイデアがぼけてしまっている。個々のシーンの演出力はあるだけに、これは惜しい。

金持ちが貧乏人の命を駒にしてビッグビジネスをする構図は、資本主義や戦争経済のそれに似ており、暗喩にすることもできたはずだが特にそうした形跡もない。このあたりがB級カルトっぽさを脱しきれない要因の一つ。先ほども書いた通り笑いの要素がほとんどないから、ブラックジョークを狙ったわけでもなさそうだ。

それでも見ていて普通に楽しめるが、個人的にはあと一味足りないといったところだ。



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