『スカイライン-征服-』70点(100点満点中)
SKYLINE 2011年6月18日(土)新宿バルト9、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー 2010年/アメリカ映画/94分/ドルビーデジタル、ドルビーSR/シネスコ/字幕翻訳:林完治 配給:松竹 提供:カルチュア・パブリッシャーズ
製作・監督:グレッグ・ストラウス&コリン・ストラウス<ストラウス兄弟> 脚本:ジョシュア・コルデス、リアム・オドネル VFX:Hydraulx 出演:エリック・バルフォー ドナルド・フェイソン スコッティ・トンプソン

≪低予算映画とは思えない高品質映像とサービス精神≫

ロサンゼルスは異星人の侵略を受けやすい街のようで、古くは大戦中にも多数のUFOが観測されたなどの報道記録がある。日本公開延期中の「世界侵略:ロサンゼルス決戦」や本作「スカイライン-征服-」など、最近の映画でも立て続けにエイリアンのお宅訪問を受けており、多くの観客を喜ばせている。

ジャロッド(エリック・バルフォー)とエレイン(スコッティー・トンプソン)のカップルは、成功した友人テリー(ドナルド・フェイソン)のペントハウスに招待される。高層階に位置するその豪華な部屋は、ロサンゼルスを一望できる抜群のロケーション。ところがその日、ジャロッドは窓のブラインドの隙間から、信じがたい街の光景を見ることになる。

『スカイライン-征服-』の監督の一人グレッグ・ストラウスは「僕らはイベントムービーを少ない予算で作りたかった」と言っている。この言葉はそのまま、この映画の魅力を端的に表している。

『スカイライン-征服-』の製作費は、なんとたったの9億円足らずだ。だがその見た目は、素人が見たらスピルバーグの100億円の超大作と遜色あるまい。インディペンデントの制作上の不利を、技術力でカバーした成功例として、本作品は後世に語られることになるだろう。

この映画の売りは「よく知るわが街が、恐ろしい異星人に侵略される」ただそれだけなのだが、その面白さは根源的なものだ。しかもそのLA侵略は、真っ昼間の明るい光りの下で、安定したカメラの前で堂々と行われる。VFXに絶対の自信を持つこの監督と制作スタジオだからこそできる芸当である。

この「昼光の下で」というのが重要なポイントで、見知った街がUFOに壊され、そこに米軍がやってきてドンパチやらかす様子を、この映画は全部バッチリ見せてくれる。暗闇と音響と細かいカット割りとブレブレカメラでごまかすことなく、報道カメラのように客観的な構図で見せる。こういうものが観客は見たいのだと、この監督たちはよくわかっている。ストーリーやキャラクターは二の次、インパクトある映像こそがすべて。そんな割り切りが気持ち良い。

こうした軍事アクションがメインの映画の場合、最新兵器が格好よく描かれるのはお約束。本作でも最初にUFOに立ち向かうのは、フクイチでもお世話になった高級無人機だ。昔ながらの遠距離巡航ミサイルのほうがよほど安全安価で確実な気もするが、そこは演出上の諸事情ということでツッコミ無用である。

さて、この無人くん軍団ときたら、圧倒的なテクノロジーを持つ異星人相手に堂々たる大活躍を見せてくれる。有人戦闘機じゃ不可能なGがかかる急旋回も余裕でこなす、これぞ近未来の空中戦であろう。フクイチにやってきた米国製ロボは、2号機建屋に入った途端メガネが曇ってパニックになって逃げかえってきたが、この痛快映画はそんな現実の厳しさをしばし忘れさせてくれる。

「実在の見慣れた街が舞台」「昼光の元での戦い」「米軍VS異星人の軍事対決」という3枚看板は、そんなわけで十分楽しめるが、やや不安なのは今後作られるであろう続編が、どうもクリーチャー同士の対決がメインになりそうな点。そうなっては上記金看板の強みがすべて失われてしまう。この映画の製作陣は技術者であると同時に空気の読める精鋭ビジネスマンの集まりだから、そんなどこにでもあるB級ホラーを作るはずはないと思うが。

最後にひとつ見どころとしては、この手の映画のおなじみ、特攻シーン。一見自信満々なアメリカ人にも、特攻についてだけは拭い難い民族的トラウマがあるため、彼らはハリウッド映画のクライマックスでしょっちゅうそうした(日本人に対する)コンプレックスをぶちまけている。だが本作のそれは、それを素直に自覚し敬意を払っている点がユニークである。



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