『ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦』60点(100点満点中)
2011年6月11日(土)公開 2011年/日本/カラー/80分/配給:東映
原作 八手三郎 石ノ森章太郎 監督 竹本昇 脚本 荒川稔久 出演:小澤亮太 山田裕貴 小池唯 千葉雄大 さとう里香 小野健斗

≪ほとんど笑いがでるほどのヒーロー量≫

いまの日本の不況の原因ははっきりしていて、どの経済学者に聞いても需要不足と回答が来る。こういうときは政府が無理にでも需要を作り出すべきと主張する人も多い。国債発行や信用創造量を増やし、積極的に内需を喚起して経済のエンジンをぶん回せというわけである。

そう考えると、投票権めあてに何千枚もCDを買って聞かずに捨てるAKB48ファンというのも案外悪くないのかもしれない。考えてみれば、これぞまさにケインズ経済学の成功例。菅総理は消費税アップの代わりに秋元康を財務大臣に迎えるべきであろう。

さて、AKB48の優位性を強引に明らかにしたところで「ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」の話である。

この映画は「秘密戦隊ゴレンジャー」(75年放映開始)からはじまる戦隊ヒーローもの35周年を記念したイベントムービーで、なんとこれまでのヒーロー全員、総勢199人が登場する。4月に公開して好評を得た同じ東映の「オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー」にならったビジネスモデルといえる。

かつて地球を守ってきたヒーローたちは、宇宙帝国ザンギャックを撃退するのと引き換えにその力を失った。レジェンド大戦と呼ばれるその戦いから数年、再び襲来したザンギャックは、かつてゴレンジャーに倒された黒十字総統の生まれ変わり、黒十字王と手を組むのだった。

そんな悪の連合軍に対抗するのが35代目ヒーロー戦隊「海賊戦隊ゴーカイジャー」。しかし彼らの立場はちょいと変わっている。もともと地球人ではないし、人類を守る義理もない。海賊なのでお宝さがしが本業で、その邪魔をするザンギャックに腹を立ててケンカをしているだけのような状態である。

それに納得できないのが"34代目"「天装戦隊ゴセイジャー」の面々で、彼らは正真正銘の正義の味方。昔ながらの老舗ヒーローの末裔である。

映画はこの、微妙に利害が一致しているものの鉄壁の同盟関係とはいえぬ2戦隊が、それでも巨悪と戦う姿をアクションたっぷりで描いてゆく。冗談抜きで、上映時間のほとんどを戦い続けている。「ブラックホーク・ダウン」(01年、米)顔負けの戦闘オンリー映画である。

199人のヒーローが登場するが、そもそも物語的にはそんなに出てきては困るわけで、これでは悪者退治というより集団リンチになってしまう。悪者の有効需要創出が必要になるとは本末転倒、ケインズさんも頭を抱える始末である。

そこで本作品の脚本家が考えたのが、過去ヒーローを敵として登場させる離れ業であった。詳細は記さないが、これはなかなかいいアイデアだ。おかげで現役2戦隊とレジェンドヒーローたちが、同色ごとに戦うといったシュールな見せ場の数々を楽しめる。アーカイブ映像を駆使した必殺技の乱れうちはとくに必見。人数が多すぎてそのうち誰が誰だかさっぱりわからなくなるが、それはそれであろう。

ゴーカイレッド役の小澤亮太とゴセイレッド役の千葉雄大など、新旧ヒーローの絡みもたくさんあって、お姉さんファンたちも納得だ。ちなみに一般のお客さんもたくさん来ていた完成披露試写会では、出演者の舞台挨拶もあってか最前列はお姉さん方が占領して黄色い声を上げていた。子供とお父さんたちは、見やすい後列に陣取っていたようだ。なるほど、こうした映画に(父子だけでなく)わざわざファミリー全員で出かける理由がよくわかった。

記念イヤーということで、仮面ライダーも戦隊ヒーローもAKB方式でにぎやかだが、この手法を来年以降も使うのは難しい。今後はあえて過去戦隊1、現役1といった厳選方式で、より深い絡みをみせていくなどといった工夫が必要になろう。意外なマイナーヒーローと現役のとりあわせが予期せぬ相乗効果をあげるかもしれない。そんな無限の可能性を期待している。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.