『アジャストメント』40点(100点満点中)
THE ADJUSTMENT BUREAU 2011年5月27日(金)より TOHOシネマズ日劇 ほか全国ロードショー 2011年/国/カラー/106分/配給:東宝東和
監督・脚本: ジョージ・ノルフィ 原案:フィリップ・K・ディック著「Adjustmen Team」 出演:マット・デイモン エミリー・ブラント テレンス・スタンプ アンソニー・マッキ―

≪謎解きの提示が早すぎて盛り上がらない≫

運命というのは、もともと定められていたものなのだろうか。それとも未来は未確定で、自らの行動がその行方を決めるのだろうか。ちなみにすべての運命はあらかじめ決まっているとの考え方を、フランスの神学者ジャン・カルヴァンは予定説と呼んだ。

映画『アジャストメント』は、そんな哲学的テーマをモチーフにしたアクション映画。フィリップ・K・ディックの短編を原作に、現代的に翻案した長編作品である。

最年少で下院議員となったデヴィッド(マット・デイモン)は、いよいよ上院議員になろうかという時、スキャンダルで有権者の支持を失う。だが破天荒な娘エリース(エミリー・ブラント)と運命的な出会いをし、彼女の一言をヒントにギリギリ救われる。そして彼女を思うデヴィッドの行動は、この世の歯車を狂わせてしまう。

さて、ここからが本番。この映画の世界観はまさに予定説なのだが、デヴィッドは本来乗るべきでないバスに乗ってしまったがために、世界は修復困難な別の道を歩むことになってしまう設定。

そこで登場するのがタイムパトロールならぬ「運命調整局」。彼らは時間を超越した特殊なパワーで、「本来あるべき運命のレール」から外れた者たちの記憶などをいじくるなどして、常に世界の流れを調整=アジャストメントして回っている。

この怪しげなMIBたちから主人公は、エリースと会うのはやめなさいなどと命じられる。まるで子離れできない母親のような理不尽な要求だが、どうやら彼女と一緒になると良くないことが起こるらしい。だが反骨精神あふれるマット・デイモン氏はそんな運命に抗うべく、あれこれ邪魔する調整局員たちの間隙をぬって、愛する女のもとへと走るわけだ。

サスペンスとして本作が致命的なミスをしているとすれば、それはこの小うるさい母親こと「調整局」の正体を、登場直後に明かしてしまっている点である。そりゃ予定説論争をモチーフにした哲学的作品であるから、解説されなくても察しはつくが、映画が最初から明言してしまってはいけない。この瞬間、「人知を超えた能力を持つ組織」から逃げ切って愛を成就させられるか、との重要な(かつ唯一の)スリルが失われた。

この映画のクライマックスの、どこにつながるかわからないドアを次々開けて逃げ回るアクションシーンが盛り上がりに欠けるのは、それが理由である。CGなども対して使わず不思議な疾走感と意外性を楽しめるスペクタクルになるはずが、ドリフターズの逃げ回りコントになっている。

ところで本作の主人公の設定は、少年時代はワルさをしたが、今では庶民の味方の若き政治家となっている。羽目を外したり、感情的に突っ走る「青さ」もあるが、正直で有権者とまっすぐ向き合う点が最大の魅力だ。なるほど、これがいまどきのアメリカ人が求める理想の指導者かと、少しだけ思いを寄せてみる。公正を是とする米国では、保守もリベラルも政治家が大衆をだますのを激しく嫌う。愛人13人は許せても、それを隠して子供まで作ることは許されない。

さて、カルヴァン先生の予定説は、つつがなく遂行されるのか。それとも主人公の愛が未来を変えるのか。

演出が盛り上がらないのでなんとなく消化不良で終わってしまう映画だが、「なんだかハッキリしない映画だな」と感じたならば、劇中ハリーと呼ばれる調査員が「君は感情で動くのか」と問われたとき答えたセリフを思い出してほしい。映画の結末の明確な答えがそこにある。

アジャストメント―ディック短篇傑作選 (ハヤカワ文庫 SF テ 1-20)
原作小説。
黄金の小冊子・真のキリスト教的生活
カルヴァン先生の名著。


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