『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』30点(100点満点中)
Pirates of the Caribbean On Stranger Tides 2011年5月20日(金)全国ロードショー/3D同時公開 2011年/アメリカ/カラー/138分/配給:ウォルト ディズニー スタジオ モーション ピクチャーズ ジャパン
監督:ロブ・マーシャル 製作:ジェリー・ブラッカイマー 脚本:テリー・ロッシオ 出演:ジョニー・デップ ペネロペ・クルス ジェフリー・ラッシュ イアン・マックシェーン サム・クラフリン

≪音楽と映像のこけおどし≫

東京ディズニーランドは、東日本震災当日7万人の来場者を寒さと降雨、空腹から守るため、園内の食料品や土産用の菓子を無料で配ったという。さらに彼らは門外不出の極秘スタッフ用通路を使って客たちを避難させ、夜はアトラクションの建物内に案内して寒さから救った。

多くはアルバイトなどの非正規雇用者だというのにキャストらは笑顔を欠かさず、徹夜で人々を誘導し、一切の混乱はなかった。事前に準備した災害時マニュアルが適切に機能した上、防寒のため梱包材を配布するなど従業員も積極的に機転をきかせた。

これぞ危機管理の見本。驚くべき危機意識の高さである。明日から国内の原発管理は、彼らに任せたほうがいい。もんじゅだの浜岡1号機なんて無粋な名前もやめて、ミッキー1号機とかMOXティンカーベルにすれば好感度も上がる。目玉アトラクションは、3D版「Our Friend The Atom」(※)。スクリーンは原子炉建屋の壁。ディズニー原発なら観光客も大勢来るし、経済効果は計り知れない。原子力村の皆さんはいますぐ検討すべきだ。なおアドバイザーとして私を雇いたい場合はいつでも連絡を。※ディズニーが1958年に製作した原発推進映画

そんなわけで私はディズニー映画最新作『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』の試写会に、感謝と敬意を払って見に行ったわけだが、さしもの彼らも出来の悪い映画を危機管理する能力は持ち合わせていなかったようだ。

腐れ縁の乗組員ギブスをロンドンの法廷から救い出したジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)は、この町で旧知の女海賊アンジェリカ(ペネロペ・クルス)と再会する。愛する自分の船ブラックパール号を船長バルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)に奪われたままのジャックは、彼女が目指す「生命の泉」を探す航海に同行するはめに。

『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの第4作目は、時系列としては前作直後のお話。しかし監督もキャストも一新し、前3部作の主演級だったオーランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイといったスターは姿を消した。つまり、ジャック・スパロウの一枚看板による、ある意味スピンオフ的な位置づけの作品となっている。

当然、ジョニーさんは出ずっぱりの大活躍だが、138分間の長尺を一人で持たせるのはきつそうだ。結局このシリーズは、一番目立っていたのは彼だとしても残りの二人の力が案外大きかったのだなとわかる。

新たに登場する女海賊役のペネロペ・クルスも、その穴を埋めるには至っていない。二人のロマンス設定も類型的で、すべてが予想通りの退屈風味。カリブの海賊の待ち時間の行列のほうがまだ意外性がある。

そもそもシリーズ自体、ディズニー映画史上最大のヒットになったから無理やり続けているようなもので気合が感じられない。それが脚本のだらけ具合に如実に表れてしまっている。

たとえばこの作品の場合、まず登場人物は大きく2つに分けられる。バルボッサ&ギブスの英国海軍チームと、スパロウ&アンジェリカ&黒ひげ船長の海賊チームだ。この2チームが、永遠の命を得られる泉をゴールにオリエンテーリング合戦をするというのが基本的な構図。それぞれの人物にはそれぞれ思惑があり、同じゴールを目指している。

こうしたストーリーの場合、通常なら各人の利害関係には建前と本音があり、それが入り組んで裏切りや二転三転を繰り返すパターンが王道。どうせ最後に主人公がバナジウム健康水を飲んで終わりだろとの観客の予想を、どれだけ翻弄するかが脚本家の腕の見せ所である。

ところがこの映画には、そもそもそうしたスリルやサスペンスを生み出そうと苦労した形跡が見られない。これまで3回も見てきた同じような映像やセットや美術のもと、平坦なストーリーが2時間半も続く。これはほとんど苦行である。観客は海賊船の入社訓練を受けに来ているのではない。もう少しファンサービスがあってしかるべきであろう。もっとも個人的には、この監督にはそれは期待できない気もするが。

ところで本作はシリーズ初の3Dだが、その立体効果は最上級といっていい。さぞ明るく良いレンズを使っているのだろう、被写界深度がきわめて浅い絵作りで、そこに3D処理が行われているので、猛烈な奥行き感を感じる。日本語字幕の豪快な浮き具合もそれに寄与する。

私はこの作品を大画面の映画館の2列目で見たのだが、これは大きな失敗だった。元々こういうものには相当強いほうだが、今回初めてひどい3D酔いを経験した。たまたまかもしれないが、他の鑑賞者も非常に目が疲れたと話していたから、注意が必要かもしれない。そういえばジョニー・デップ自身も3D映像はうまく感じ取れないなどと海外のテレビ番組で語っていたが、その件と関係があるのかどうか。いずれにせよ、ある程度距離を取った席で見ることをアドバイスしておく。

なお、シリーズの恒例でエンドロール後にも1シーンが残っている。むろん、何の前触れもないから今回も大勢のライトユーザーたちが真のラストシーンを見ることなく帰路に就くであろう。TDRのキャストなら地団太をふみそうなほど、不親切な海賊さんである。

パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド [DVD]
映画版前作。
原発・正力・CIA―機密文書で読む昭和裏面史 (新潮新書)
Our Friend The Atomの話はこの本などで。


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