『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』30点(100点満点中)
2011年4月16日より全国ロードショー 2011年/日本/カラー/107分/配給:東宝
原作:臼井儀人 監督:増井壮一 脚本:こぐれ京 声の出演:矢島晶子 ならはしみき 藤原啓治 こおろぎさとみ

≪妙にタイムリーなテーマが不気味≫

福島の原発事故が、日本中を引っ掻き回している。先日も参加者20余名という、原発推進デモとしては世界最大規模の市民行動が東京で行われたと報じられた。世界初の恥いや快挙を成し遂げたことを、まずは誇りにしていただきたい。

そんなご時世だからか、劇場用第19弾となる『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』も、なんとエネルギー問題を暗喩した、藤波心もびっくりの社会派作品として登場した。

しんのすけ(声:矢島晶子)の前に、怪しげな少女レモンが現れる。彼女が持ってきたアクション仮面からのメッセージには、しんのすけをアクションスパイに任命するとあった。すっかりその気になったしんのすけは、彼女の指導の下に猛特訓を開始する。

さて、裏テーマは原発問題……と、完全に無理筋の解釈をしてみるものの、もちろんこれは偶然にすぎない。だが、しんのすけが後半、その行方を悪の組織から守り逃げるアイテムは、少量なのに膨大なエネルギーを生み出すある「物質」。扱いを間違えると大惨事を引き起こすあたり、何かにそっくりだ。実際、現在の福島原発と放出放射性物質の関係を、この映画と同じようにたとえる人は少なくない。

そんな風に、ちょいと想像力を刺激する作品ではあるが、それ以外はクレしん映画としてはかなり下のレベルにとどまる。感動も、笑いも、映画独自の世界観も、維持することさえかなり無理がある様子。

スパイアクションもとくにどうということもないし、パロディとしての楽しさも、予想通りで特筆すべき点はない。これではテレビの本放送を見てたほうが面白いなあ、というのが正直なところだ。大人がすすんで見に行く、かつてのクレしん映画のパワーは見うけられない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.