『ありあまるごちそう』70点(100点満点中)
WE FEED THE WORLD 2011年2月19日、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー! 2005年/オーストリア映画/カラー/上映時間:96分/ビスタサイズ/ステレオ 提供:メダリオンメディア/協力:カフェグルーヴ 配給:アンプラグド
監督:エルヴィン・ヴァーゲンホーファー 出演:ジャン・ジグレール ピーター・ブラベック カール・オトロック

≪反グローバリズムな食ドキュメンタリー≫

最近、アイピーピーいやTPPなるものが流行っている。加盟国の間で関税を撤廃して、自由貿易を推進しようという取り決めだ。

しかし注意せねばならないのは、国際政治の世界で発せられる「自由」なる用語は、正確には「米国にとっての」という部分が、常に省略されているという点である。

案の定、今回もTPPなる「自由」サークルに日本を強引に勧誘しているのは、自由業界総大将の米国である。となれば、どう見ても私たちにとって得になる話ではなさそうだ。細かいことなど考えずとも、ジャイアンが強引に誘ってくるイベントに参加して、はたしてのび太にメリットがあるかどうかを考れば判断を誤ることはない。

そもそも自動車だの家電だのは、今後は途上国の台頭で際限のない低価格競争に挑むほかはない。だが農作物や穀物は、世界の人口増を見越せば価格は将来もうなぎのぼり。しかも世界中でだぶついた投機資金が際限なく投入されるので、さらにその傾向は増すだろう。家電や自動車の価格が高騰する事はありえないが、穀物はそうではないわけだ。

米国がやっきになって食糧を生産し、ライバル国の農業をつぶしにかかるのは、大儲けの観点からみればきわめて合理的な行動である。だから「農業を捨ててもほかでは得する」などといってTPP賛成を主張する人は、おそらく米国のエージェントだろう。あるいは、クーポンを買えば97パーセント引きと言われて、本気でお得だと信じてしまうタイプのどちらかだ。

さて、そんな時勢に公開される食糧問題のドキュメンタリー「ありあまるごちそう」は、なかなかタイムリーといえるだろう。この映画は05年に製作されたかなり古い作品で、TPPのような最新の話題は一切扱っていないのだが、グローバル化が食と農に与える問題点をズバリ喝破している点で、非常に現代的である。

冒頭では、ウィーンにおける大量のパンの廃棄風景が提示される。これがもう、大量などという月並みな言葉で言い表しては申し訳ないほどのドカ量で、まさにごちそうが「ありあまる」状況。飢餓のある国から輸入した小麦で作ったパンを、山のように捨てているとは、まさにブラックジョーク。

このように、内容はなかなかセンセーショナルでアクが強い。お勉強ちっくな優等生ドキュメンタリーが苦手な人にすすめたいタイプの作品である。世界中に取材した行動力も評価したい。

食にうるさい人が見ても唸るネタが多数あるが、個人的に面白いと思ったのが魚問題だ。

たとえば野菜などの農作物は、たとえ農薬などを使っていないとしても「水」が汚れていれば完全アウトである。だから、国土全体が王蟲も裸足で逃げ出す腐海と化した中国産のものは誰だって避ける。避けられる。

しかし魚ならば、別に国境で海水が変わるわけではないから、養殖でない限りどこで獲れたものだって大差ないだろうと思う人は少なくあるまい。

そんな甘い考えをこの映画は打ち砕いてくれる。

フランスのある大規模港で獲れた魚と、小型漁船で獲れた魚を実際に比較するシーンでは、それを小学生にもわかるように教えてくれる。こういう場面での映像のパワーは絶大である。一方の鮮度は見るからに悪いし、気味の悪い深海魚などは引き揚げ時の水圧変化で目玉が飛び出て失われている。本物だけに、下手なホラー映画よりも恐ろしい。解説者の経験に基づく豊富な知識や、流暢な語り口も見事なもので、また痛快である。彼をフランスのさかなクンと名づけたい。

大豆の大輸出国ブラジルのケースでは、本来大豆栽培など適さない土地を、タダ同然だからという理由で先進国の大企業が買いあさり、環境破壊をしながら無理やり単一栽培農地へと変更している現状が紹介される。

新自由主義な人たちは「世界でもっとも適した土地でもっとも安く作ったものを買うほうが消費者にとって良い」などと言うが、そんなものがウソっぱち、不可能であることがよくわかる。正確には、「到底適したとは言えない土地で、ムリヤリ農薬と化学肥料漬けで作った作物を、補助金つけて安く」輸出しているにすぎない。

このシーンの直後に、そんな世界有数の食糧輸出国の貧民たちが食糧不足で死にそうになっている皮肉な映像を挟むあたりが心憎い。ここで紹介されるブラジル貧困家庭で、泣き叫ぶ子供たちに母親が何をしているかを知って、怒りと悲しみで涙しない人はいまい。

このほかにも、鶏の大量生産、大量処分の光景などじつにエキサイティングな見せ場が多数あるが、それは映画館で。

初心者から上級者まで、心を揺るがされるドキュメンタリー。もっとも思想的には反グローバリズムなので、その点を考慮したうえでの鑑賞が望ましい。

ありあまるごちそう
書籍版。
自殺する種子―アグロバイオ企業が食を支配する (平凡社新書)
この問題に興味ある人は読んでみて。えらく面白いです。


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