『ザ・タウン』75点(100点満点中)
The Town 2011年2月5日(土)丸の内ルーブル、新宿ピカデリー 他 全国ロードショー 2010年/アメリカ/カラー/125分/配給:ワーナー・ブラザース映画
原作:チャック・ホーガン「Prince of Thieves」 製作総指揮:デビッド・クロケット 監督:ベン・アフレック 脚本:ピーター・クレイグ、ベン・アフレック 出演:ベン・アフレック レベッカ・ホール ジョン・ハム ジェレミー・レナー クリス・クーパー

≪おとうさんの仕事はぎんこうごうとうです≫

盟友マット・デイモンがスター街道まっしぐらなのに比べ、最近ちと目立たないベン・アフレック。気の毒にも、評価の高かった監督第一作目も日本ではDVDスルーの憂き目を見た。しかしこの監督二作目「ザ・タウン」の出来の良さを知ってもらえれば、日本のファンにも再注目されるのではと思う。

全米有数の強盗多発地区であるボストンのチャールズタウン。ここで育ったダグ(ベン・アフレック)は、華々しい青春時代を送るがいまでは結局、弟分のジェム(ジェレミー・レナー)らと「家業」を継いでいた。鮮やかなその手口は仲間から厚い信頼を置かれていたが、あるとき逃亡のためやむなくとった人質が、同じ町出身の女(レベッカ・ホール)だとわかり、彼らは正体を知られたのではないかと狼狽する。

もっともユニークで目立つ本作のポイントは、舞台となる街についてだろう。ボストンのチャールズタウン。この町は、あの犯罪無法国家アメリカの中でも、強盗がもっとも多い街として知られる。住民は先祖代々銀行強盗が生業で、休日ともなれば友人家族と誘い合って、川向こうの景気のいい街に出かけて覆面強盗をして帰ってくる。銀行強盗が地場産業とは、ガイトナー財務長官もびっくりである。

閉鎖的なコミュニティたる地元ムラ社会を抜け出そうともがく若者の青春ドラマは、定番中のド定番だがこれは新鮮。ベン・アフレックでなくとも、そりゃ逃げ出したくなる。

主演も兼ねる彼は、自身の故郷でもあるこの街を、きっと今でも愛しているのだろうと思わせる愛情深い描写で描いてゆく。主人公の仲間たちの、ろくでなしながらも魅力的な人物描写はその表れと言える。

なにしろここの住民にとって強盗は伝統芸能みたいなものだから、その手口は鮮やか。映画史上有数のディテール豊かな銀行強盗シーンに、観客は快感のようなものを感じることだろう。お前らその才能をほかに生かせとおもわずつぶやきたくなるほど、見事なお手並みである。

思いっきり感情移入できるそんな味のある彼らが、ほんのわずかなほころびからFBIの攻勢をうける展開はスリルがある。人質の女の子に正体がばれたのではと焦り、ストーカーを始めるベン・アフレック氏が、やがて彼女の誠実な魅力の虜になるお約束の流れにも没頭できる。

逃げ出したい、このかわいい子と一緒に。まだ自分の正体や過去は隠さざるをえないけど……。そんな主人公の思いは果たして遂げられるのか。

意外な結末など、随所にアメリカ映画ならではのテキトーな倫理観がみられ、ほほえましいものがあるが、人間が描けているので見ごたえがある。弟分が追い詰められ、それでもしぶとく抵抗するクライマックスはとくに秀逸で、こうしたジャンルにおける語り草となるのではないだろうか。



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