『GANTZ』45点(100点満点中)
2011年1月29日、スカラ座、渋東シネタワー他 2011年/日本/カラー/131分/配給:東宝
原作:「GANTZ」奥浩哉(週刊ヤングジャンプ連載/集英社) 監督:佐藤信介 脚本:渡辺雄介 出演:二宮和也 松山ケンイチ 吉高由里子 本郷奏多 夏菜
≪行ってくだちい≫
結論から言う。『GANTZ』は奥浩哉の同名大ヒットコミックの、満を持しての実写映画化だが、相変わらずの邦画のダメっぷりが表れた残念賞である。ただし、希望はある。
就活中の大学生、玄野計(二宮和也)は、幼なじみの加藤勝(松山ケンイチ)と地下鉄のホームで偶然再会する。その後、ホームに落下した男を成り行きで助けようとした二人は、運悪く突入してきた列車にはねられてしまう。ところが次の瞬間、二人は天国ではなく、どこかのマンションの一室に"転送"されていた。
さて、その部屋にはどうやら同じようにどこかで命を落とした連中が次々と集まってくる。部屋の奥には、正体不明の真っ黒で巨大な球体が鎮座している。このシュールな冒頭から、予測できない命がけのサバイバルドラマが開始される。謎だらけの世界設定が魅力のSFアクションドラマである。
原作はハリウッド映画をこよなく愛する奥浩哉の好みであろう、きわめてスケールの大きなアクションとストーリーが魅力だが、現在も絶賛連載中。つまり未完──ということで、この映画版は原作とは様々な設定、ストーリーが異なっている。
原作の要素を多少再現、抽出しながらオリジナル展開になった(そして興業面で成功を収めた)「デスノート」にならった映画化である。よって本作では、原作と違う話じゃねーか、などといった批判は不適切といえる。連載中の原作は、長すぎる上に話が広がりすぎており、もはやハリウッドでも二の足を踏みそうな大スケールなので、これはやむを得ない。
さて、その大前提をもとにそれでも言うが、この映画版は原作の魅力を再現しているとは言い難い。全部言い始めるときりがないので、いくつかだけを書いておく。
まず、原作からエロとグロの二大要素が大幅にスポイルされている。これはまずい。映画はお茶の間テレビではないのだから、テレビドラマはもちろん、原作漫画の表現をすら凌駕する過激な描写をするのがある種の使命のようなもの。誰だってそういう特別なものに期待する(だからこそ金を払って見に行く)のに、この生ぬるさはなんだろう。
いくら女性客を集めたいからと言って、「GANTZ」を女性客向けにアレンジするのは間違っている。客に合わせるのではなく、客を映画に合わせるくらいの根性がないのかと問いたい。
この映画の場合で言えば、製作側が想定する若い女性の見込み客に、むしろ「GANTZ」のエログロな魅力をわからせるようにするくらいでなければいけないし、それが映画人としての腕の見せどころではないか。
たとえばヒロイン岸本恵を演じる夏菜は、全裸で「部屋」に転送されてくるのだが、そのシーンのために数日前から下着類を一切身に着けなかったという。身体に跡がつくのを嫌ったわけだが、見上げた役者魂ではないか。撮影時も全裸で挑んだのだが、その努力を踏みにじるように完成した映画では乳首もヘアも何も出てこない。武田久美子の寸止めグラビアじゃあるまいし、こんな不自然な演出はテレビのゴールデンタイムででもやっておけと、全世界のガンツファン激怒である。ちなみにこの件では、あくまで私はGANTZファンの代弁をしているだけであり、決して夏菜氏の大きいおっぱいが見たいといった、個人的感情によって意見を表明しているわけではないことをここに記しておく。
そもそも奥浩哉は、揺れる巨乳の乳首の軌跡を描いた画期的発明で知られる、女体描写には一家言ある作家である。監督や製作委員会も、そこにもっと敬意を表してほしいと思うのは私だけではあるまい。
グロ描写についても、作品の乾いた世紀末ムードと、主要キャラでもいつ死ぬかわからない緊迫感を表現するのに不可欠なもので、女性向けにソフトにしましょうで済む話ではない。一歩間違えば作品の命を奪うアレンジをやっているという自覚が作り手にあるのか、なんとも疑わしい。観客(読者)の興味をわしづかみにする、オープニングの轢死シーンをばっさりカットとは、なんとも拍子抜け。最初からガッカリである。
だいたいこうした「一般女性向けアレンジ」すら中途半端なので、せっかくそういう客層が見ても「なにこのキモくてわかりにくい話」とか「二宮くんかっこよかったね」でおしまいであろう。この映画化にかかわった人たちは、本当にそんな物を作りたかったのか?
次にキャラクターについてだが、岸本が「カトーさん」と呼ぶことでわかるとおり、かなり相互の関係性に変更がみられる。イケメン長身、ケンカも強いのにいじめられっ子をかばう正義の男加藤が、今は昼行燈に落ちぶれたクロノに、少年時代からの憧れを抱き続けるちょっと痛くてこそばゆい人間ドラマも薄れた。
そんな中、ヒロイン岸本は二人の男の「格」の違いを本能的に見抜いて加藤の方に恋をする。加藤に尊敬されているはずの玄野が、そんな二人に横恋慕的な嫉妬感情を抱くあたりが非常に面白いのだが、これも面倒だったのか映画ではほとんど描かれない。そもそも映画版ではキャラの年齢設定が異なるので、「クラスの中心になれない平凡以下の人間たち独特の青春時代のイタさ」、そのあたりはあまり描かれていない。
逆に、映画版でもよく再現されている部分もある。敵を囲んでいる状況で、さっさと全員で連射すりゃ勝てるのに、なぜか汗ばかりかいて撃たないじれったい展開とか、原作読者は思わずニヤリ、といったところ。
目の前で大殺戮が起こっているのに「映画の撮影〜?」とかいってとぼけている、無関心にもほどがある都会人描写なども入れてくれれば、さらなる笑いを生んだところだが惜しい。日常との隣り合わせ感がありつつも、シュールな雰囲気。そのあたりを次は突き詰めてほしいところだ。
ほかに褒めたいところといえば見た目の部分、とくにネギ星人パートの異様なまでの再現性。あの街並み、ムード。これはGANTZファンも大喜びであろう。あくまで背景と星人についてのみ、すなわち美術スタッフの手腕に関してではあるが。
星人と戦う人間キャラクターたちの人数は減ったが、なかでも魅力的な人物ばかりいなくなったのは残念。元ネタの肖像権等の問題もあるとは思うが、その最たるものというべき田中星人や西丈一郎はちゃんと出てくる。これには笑わせていただいた。
仏像編では、千手観音のあまりのヘタレぶりに脱力する。倒せる気がしないほどの強敵で、誰もが絶望したほどの千手の怖さを、もうちょい出せなかったものかと思う。
この映画は二部作の前編で、後編では玄野が人間的に成長する引き金となる重要なキャラクター、小島多恵(吉高由里子)が本格的に話に絡んでくると思われる。原作のストーリーからはさらに大きく離れ、きっとオリジナルの結末が待っていることだろう。
記事中でも褒めたとおり、見た目の雰囲気やVFXの出来は決して悪くないし、夏菜など役作りをしっかりやってきた若い女優の力ももっと生かすことができよう。ポテンシャルは大いに感じさせるのであるから、後半は前編のミスを研究・改善し、どうか傑作として歴史に刻まれるよう頑張っていただきたい。このキャストとスタッフなら、ある種の覚悟と度胸さえあれば不可能ではないはずだ。