『トロン:レガシー』65点(100点満点中)
Tron : Legacy 2010年12月17日(金)全世界同時公開 2010年/アメリカ/カラー/2時間6分/配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
監督:ジョセフ・コシンスキー 撮影:クラウディオ・ミランダ 音楽:ダフト・パンク 出演:ギャレット・ヘドランド ジェフ・ブリッジス オリヴィア・ワイルド

≪かっこいい、ただそれだけでいい≫

世界的エンタテイメント企業ディズニーは、地道に歴史を積み上げた結果、2世代にわたるコンテンツをたやすく製作できるようになった。『トロン:レガシー』などその最たるもので、これはなんと1982年に公開された「トロン」の28年ぶりの続編である。しかも今度は前作の主人公の息子が主役。

こういう企画をやられては、デジタル版不思議の国のアリスと称された史上初のCGアクションムービーに夢中になったお父さんたちは、幼い息子を連れて再度映画館に出かけないわけにはいかない。

かつて電子の世界に入り込み、プログラムたちに混じり大冒険をしたケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)は、いまではIT業界の大企業エンコムのCEOとして、息子サムと幸せな日々を送っている。ところがある日、ケヴィンは何の予告も無く失踪。やがて成長したサム(ギャレット・ヘドランド)は、自分を捨てた父のことなど胸の奥にしまいこみ、やんちゃな生活を送っていた。ところが信じがたいことに失踪から20年後、ポケベルを介して父親からのメッセージが届く。

20年もたってからポケベルにメッセージとは国武万里もびっくり、気味が悪いが胸躍るオープニングである。このあたりの序章というべきドラマ部分は、メガネの有無にかかわらず基本的に2Dで描かれる。ところが息子サムがプログラムの世界に突入した途端、ディズニーいわく「映像革命」の最新3D映像へと画面は移り変わる。

なんといっても天下のディズニーが社運を賭けた冬の超大作。別に予算がないから2D/3D混在なのではもちろんない。3D効果を物語に連動させた演出として、わざとこういう事をやっている。劇中の主人公が別世界に入った途端、いきなりグニョーンと奥行き全開な3D画面に切り替わり、観客の驚きも最高潮というわけだ。本作品に2D上映版が存在しない理由は、こういうところにある。3Dはこの映画の場合、演出の一環として完全に作品と融合している。

とはいえ、「アバター」をはじめとする最近の3D映画を見た方には、本作がそれらと比べて群を抜いてすごいことをやっているようには見えないだろう。くれぐれも過大な期待は不要である。

むしろ、28年前の前作と比較してのすごさ。こちらを味わうつもりで行くとよい。現在では映画芸術に不可欠なCG技術は、28年間で信じられないほどに変化、進歩した。

中でも驚くのは、前作と同じ役を演じるジェフ・ブリッジスの二役である。二役といっても、彼が演じるのは現在のケヴィンと、30代のころのケヴィンという設定。ちなみに現在のジェフ・ブリッジス本人は61歳だ。

つまりこの映画では、61歳の役者に30代の自分を演じさせている。

顔面はCG補正により30代のジェフ・ブリッジスそのもの。事前に説明されなければまず違和感は感じない。これはすさまじい技術である。常日頃から、たとえ最新のVFXでも老化メイクだけは受け入れがたいと私は言い続けてきたが、よもや若返りメイク(?)でその難問を解決してしまうとは予想外の力技。ハリウッド恐るべしである。

若い時代、年寄時代。両方を同じ役者で演出したい全世界の監督さんの悩みはこれで解決。それどころかこの技術が庶民レベルに普及すれば、お見合い写真どころかお見合い動画の信頼性もゼロになる。全世界のアラフォー独身女性垂涎の映像マジックである。心当たりのあるおばお姉さんは、今のうちに一度見て研究しておくことをすすめたい。

いいかげんにしろと言われそうなので『トロン:レガシー』に話を戻すと、相変らず少年心を刺激するビジュアル、展開にワクワクする。青い光に彩られたトロンスーツのクールさは言うに及ばず、お尻から出すライトリボンで敵を囲うライト・サイクル戦などは、ゲーム黎明期に夢中になったオジサン世代も懐かしくて仕方があるまい。大容量ハードディスクをぶん投げ合う肉弾戦も、個人的には不良クラスタの発生がやや心配になるが、じつに絵になる。

とにかく面白くて、カッコイイ。正直なところ魅力はそれだけなのだが、少なくともソレがたくさん詰まっている。ゲーム大好き少年には、父親としてはとりあえず一度見せておきたい、そんな映画である。そのうえで、自分が子供のころ夢中になったゲームや友達の話をしたら、いい父子コミュニケーションのきっかけになるはずだ。ファミリー映画とはこうでなくてはなるまい。

複雑な伏線などもなく、子供(小中学生)にも向く。そうした子供の観客はトロン世界のクールさに、あるいは現実世界で大型バイクを乗り回し、秘密基地のような家にすむ若き主人公にうっとりと憧れる。お父さんたちは電子世界の美女たちが、カラダのラインくっきりの恥ずかしい衣装で、お尻をこちらに向けるシーンにうっとり。

親子でそれぞれ楽しめる、いつもながら安定した出来のディズニー実写映画といえる。



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