『エクスペリメント』60点(100点満点中)
The Experiment 2010年12月4日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー 2010年/アメリカ/97分/R15+/シネスコ/配給:日活
脚本・監督:ポール・シェアリング 出演:エイドリアン・ブロディ フォレスト・ウィテカー キャム・ギガンデット クリフトン・コリンズJr マギー・グレイス
≪現代的なテーマを生かしきれてないのが残念≫
これはドイツ映画「es [エス]」(01年)のハリウッドリメイクだが、今では禁じられている心理実験の顛末を描いたサスペンスだ。「es [エス]」がカルト的人気を博するまでは、そんな実験があったことは一般人はあまり知らなかった。だからあの映画が実話だったと聞いて、人々はいいしれぬ不安と恐怖、不気味さを感じた。ようするに、リアルな都市伝説を聞いた時のような、アンダーグラウンドの知識に触れた喜び、面白さのようなものが受けたのである。
失職したばかりのトラヴィス(エイドリアン・ブロディ)は、何気なく参加した平和デモ中に魅力的な女性と知り合う。しかし金がないために彼女との旅行に行けなかった彼は、日給1000ドルという破格の被験バイトに身を投じる。集められた24人の被験者を看守役と囚人役に分け、疑似監獄の中で2週間すごさせる大学の実験だ。トラヴィスはそこで気のいい黒人労働者バリス(フォレスト・ウィッテカー)と意気投合。楽なバイトと思った矢先、実験を始めた彼らの間に、予想外かつ不穏な空気が流れ始める。
71年にスタンフォード大学で行われた実験の結果や、「es [エス]」を見ている人にはあまり新味のないストーリーであることは否めない。実験者側を一切うつさず、観客にいやおうなしに被験者の疑似体験をさせる試みはユニークだが、それにしてもオチがわかっていたら面白さは半減以下だろう。
恐怖を味あわせるという意味でも、フォレスト・ウィッテカーが演じる気のいい黒人キャラの「実験前」を描いてないので不十分に終わっている。この登場人物にはいろいろ裏設定があるらしいが、むしろそういったものを表にしつこいほど出してこそ、この実験の怖さ、そして作品のテーマであろう「権力をコントロールする難しさ」を浮き彫りにすることができるはずだ。
あるいは2010年のアメリカらしいシニカルな社会批判を盛り込んでもよかった。あの国にだって、大統領のポストに座ったら人が変わったように色んなことをやっている(やらない)人物がいるではないか。そこいらをチクリと刺してこそ、わざわざリメイクする価値があるというものだ。現状では、「es [エス]」未見の方にしかオススメできない。
見どころは「ト〜イレット♪」のいじめシーン。お口でお掃除するのはこの手のお約束だが、欲を言うならここはもっとパンチある描写がほしかった。エイドリアン・ブロディの演技が生ぬるいせいか、あんな恐ろしいことをやられているのに緊迫感が足りない。あんな状況になったら、膝が抜けるほどの怖さを味わうはず。その後、一応アリバイ作りのようにそういうショットがあるものの、演技派らしい胃が縮み上がるようなパフォーマンスを見せてほしかったところ。
とはいえこのシーンは、役者同士のアドリブがかなり入っているとのこと。こんなおっかないシーンならば、よほど互いの信頼があったとしても不安は残ったに違いない。実験の映画を撮影中に実験とは、ブラックジョークにもほどがある。