『ゲゲゲの女房』30点(100点満点中)
2010年11月20日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開! 2010年/日本/119分/35mm/カラー 配給:ファントムフィルム
監督:鈴木卓爾 脚本:大石三知子、鈴木卓爾 企画・プロデュース:越川道夫 原作:武良布枝(実業之日本社刊) 出演:吹石一恵 宮藤官九郎 坂井真紀 夏原遼 村上淳

≪NHK版を見た人に新たな発見があるかは微妙≫

油断すると、いまだに朝になるたび、いきものがかりの歌が頭に浮かぶ病に犯されている人は少なくない。これは発症したが最後、その日は夜まで脳内でお礼の言葉がループするのだからたまらない。

そんな『ゲゲゲの女房』だが、NHKのドラマ化と同時にこの映画版も企画が進められていた。キャストはまったく異なるが、水木しげるの妻、武良布枝による原作は同じ。この映画版では水木夫妻が成功するその一歩前まで、すなわち夫婦にとって一番厳しかった下積み時代を描いている。

布枝(吹石一恵)は、お見合いで知り合った茂(宮藤官九郎)と29歳で結婚した。貸本漫画家の茂について上京した彼女は、しかし予想以上の貧乏暮しに唖然とする。スズメの涙の原稿料は、何かと難癖をつけて減額され、二人の暮らしをさらに苦しくさせた。それでも布枝はめげることなく、家事に仕事の手伝いにと奮闘するが……。

NHK朝の連続ドラマ版は、かりにも全国のお茶の間に届けられるという宿命から、ほのぼのホームドラマの枠内で作られていた。しかし映画にその必要はないということか、二人の貧乏ぶりのリアリティが半端ではない。

とくに茂を演じるクドカンこと宮藤官九郎は、表情も顔つきも昭和の貧乏人そのもの。くさりかけのバナナを買ってくる有名なエピソードも、テレビ版ではほほえましい笑いを呼んだが、映画版ではまったくシャレにならない。同じく貧窮暮らしに慣れている私などがみると、どうにもいたたまれなくなってくる。クドカンのリアル貧乏神のような風貌を、もう少しチャーミングに調整すればなお共感を高められると思うのだが……。

金をはらって胃が痛くなるようなリアル貧乏を見せられるというのも参るが、さらに本作は成功前までの話なので、いかにその後の現実の大躍進を知っていようと最後までこのモヤモヤは晴れない。希望に満ち溢れたドラマ版とは、そんなわけで鑑賞後感が正反対である。

貧乏耐久レースのようなストーリーを、高いリアリティで送るド貧乏観察日記。本来は、苦しい人生を二人で乗り切る夫婦愛を、実在のマンガ史のトリビアを交えながら描くのが面白いところだと思うが、そちらのテーマは薄味であった。

背景を無理にCG修正しておらず、現在の近代的建物をも堂々と映す演出法は、なんだか自主映画のようでユニークだが、さほどの違和感はない。これもクドカンの強烈役作りのたまものか。

結論として、NHKのドラマが無料で見られる事を考慮すると、同じ話をわざわざ1800円払ってみるだけの魅力が本映画にあるかというと微妙なところ。

作品の知名度を上げ、前座となってくれるはずの心強い味方が、最大のライバルになってしまったという皮肉。これならいっそ、同じキャストで後日談を映画にする、いわゆる安直テレビ映画のほうが話題を呼んだかもしれない。意欲は買うが、企画段階で何かミスがあったような気がしてならない。



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