『10億円稼ぐ』70点(100点満点中)
2010年11月20日より渋谷シネクイントにてロードショー 2010年/日本/カラー/99分/配給:エイベックス・エンタテインメント
企画・プロデュース・監督:テリー伊藤 制作会社:株式会社ロコモーション 配給:エイベックス・エンタテインメント 出演:テリー伊藤 NIGO ラッキー池田

≪起業家にとって、忘れがちな初心がある≫

金儲けというのは難しいが面白い。たとえば中国には、乾燥わかめと偽って黒ビニールをつめて売る会社があるそうだが、詐欺的手法もそこまでいくと怒りを通り越して笑いしか出ない。昔はペンキで塗っただけのカラーひよこなんてのが売られていたが、黒ビニールはもやは食品ですらない。後先考えないにもほどがある。

そんなわけで、金もうけをしようと奮闘する人を見るのも案外面白いものだ。『10億円稼ぐ』は、そのあたりの心理を刺激する「金儲け実践ドキュメンタリー」。才人テリー伊藤が、初監督と出演を兼ねた、娯楽性の高い一本である。

今回テリーが目を付けたのは、サンリオのキティちゃんのようなキャラクタービジネス。老若男女に受け入れられ、国境すら超えるキャラクターひとつで、天井知らずの版権料が手に入る点が気に入ったらしい。たしかにタイトル通り「10億円」を目標額にするならば、このくらいデカい事をやらないとだめだろう。

夢はでかいが手法は堅実。彼が一番最初にやったのは、バイクや自前のヴィンテージ服をうっぱらうこと。そうして作った100万円を超える軍資金を手に行動を始める。

いちから商売を始めようとするならば、ふつうは佐川急便で何年か働いて金をためるとか、この時点までに相当長期間の苦労をするわけだが、そこを一足飛びにする展開が爽快感を感じさせてうまい。洒落者のテリー伊藤らしく、持ってるジャケットひとつが30万円とかで売れるので、ちまちましていないところがなお良い。

その後はデザイナーをmixiで探すなど、金をかけない手法を基本に一歩一歩進めていく。avexから、ちょっぴり売れないタレントを何人も引っ張ってきて、宣伝担当チームにする展開も楽しい。彼女たちを選んだ基準が、「不幸そうだ」「いかにもダメ人間だ」「そこがいい」というあたりが笑えるし、観客の共感を誘う。

彼女たちは見るからにアホなので、プロモーション活動もまるではかどらない。熱意だけはあるが、プレゼンや営業のど素人ぶりは、ほとんど相手側にとっては営業妨害に近いほどで、観客をハラハラさせる。無知というのは怖い。

しかし、ときにはそうしたバカの一念が、信じがたい奇跡を生むこともある。これは商売をやったことのある人ならば、誰もが体感していることだろう。本作にもそんなシーンがある。

そんな風に、バカだが純粋そうな女の子たちのひたむきな態度を見ているうちに、なんだかこちらも涙が出てきた。考えてみれば、独立したての頃の自分も彼女らと似たようなものであった。右も左もわからず試行錯誤を繰り返し、何度も失敗した。

そんな事を思い出すうちに、本気で彼女たちを応援したくなってきた。もっとも、今だにお前はダメ人間だろという声もあるが、ここでは無視させていただく。

こうした体当たり企画はなんだかバラエティ番組の一コーナーのようだが、これは2年以上も歳月を費やしている企画なので、映画にふさわしいスケール感があるといっても良いだろう。

どうしてもうまくいかず、ドン小西に相談しにいったときの回答もシンプルながら的を射ているし、底抜けに明るい出演者たちの大胆な交渉風景は見ていて勇気が出る。各イベントなどにかかった費用の明示も親切だ。とっつやすく見せるため、最初はmixiで人探しなんてやっていたが、徐々にまともなビジネスっぽくなってゆく。

軍資金がなくなるたびに服をうってまた100万単位の金を作る展開には、いっそテリーの服を全部売れば10億円になるんじゃねーかなどと無粋なつっこみも入れたくなるが、それでも起業家にとっていくつものヒントが得られることは確か。何度も訪れるへこまされるような局面にどう対処するか、それを見るだけでも励みになるというものだ。

そしてクライマックスには涙涙の感動も。粗削りだが、レイトショーで気軽に楽しむ分には十分な娯楽ドキュメンタリー。この作品で生み出されたキャラクター、ナニティは今でも各所で入手できる。はたして彼らは10億円を稼ぐことができたのか? 結果は映画館で。

マルマン ゴルフ クラブケース NANITY70ハート ナニティ セブン オー ハート クリップマーカー
これがこの映画で企画したキャラクター、ナニティです。ちゃんと商品化されてます。
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副業から始めるのが無難だと思います。


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