『[リミット]』98点(100点満点中)
Buried 2010年11月6日シネセゾン渋谷他全国順次公開 2010年/アメリカ/カラー/95分/配給:ギャガ
監督:ロドリゴ・コルテス 脚本:クリス・スパーリング 出演:ライアン・レイノルズ

≪本年度屈指の傑作スリラー≫

『[リミット]』が本年度屈指の傑作スリラーであることは、もう様々な媒体で話し、書いてきたが、その真の理由はあえてこれまで書かなかった。当サイトの読者のためにわざわざとっておいた……というのは建前で、文字数&時間制限があるよそ様の媒体では紙面が足りずそこまで語れなかったというのが真相である。何もそんな事までばらす必要はないのだが、つい言わずにはいられない映画界一の善人で正直者の私である。

男(ライアン・レイノルズ)が目覚めるとそこは棺桶の中。ふたの隙間からは土がこぼれてくる。どうやら生き埋めにされてしまったようだ。いったいなぜ? 誰がこんなことを? なんで俺が? 暗闇の中、混乱と恐怖で呼吸困難になりかけた男の手に小さなライターが触れる。手探りで探り当てたのはそれと懐中電灯、そして見知らぬ携帯電話。それだけを手に、男の悲壮なる脱出への挑戦が始まった。

94分間ノンストップ。電話先の声を除けばライアン・レイノルズ以外、基本的にはだれも出てこない。舞台は棺桶の中だけ。ストーリーは男が携帯電話をあちこちにかけるだけ。史上まれにみる、狭苦しい、真っ暗恐怖映画の始まりだ。閉所恐怖症の方は、間違っても本作のチケットを買いに行ってはいけない。10分で帰宅する羽目になる。

それにしても、ただ男が電話をするだけのこの映画が、なぜこんなにおもしろいのか。

それはまず本作のストーリーが魅力的な「謎解き」「疑似体験」「フェアな論理性」に満ち溢れていること。かつきわめて高い計算のもとに行われた撮影、編集のテクニックが堪能できるからだ。

脚本一本勝負とは、決してそれ以外の要素がおろそかでいいという意味ではない。シンプルな脚本の魅力を引き出すためには、やはりカメラ、演技、音楽、そういったものが重要になってくる。ただ、普段は主役のそれらが、あえて完全に脇役に回るという、それだけのことだ。

この手のスリラーの場合、主人公がお馬鹿さんだと観客がイライラするケースがあるが、本作は大丈夫。まずはここにかけるだろうという所に彼は電話をし、パニック寸前ならやむをえないだろう程度のちょっぴりあわてた応対をして、それなりの結果を導き出す。その繰り返しで徐々に前に進んでいく。

困った人相手に、そういう対応はないんじゃないのと、電話先の態度に腹立ちというか違和感を感じるかもしれないが、その謎は最後まで見ればちゃんと氷解する。ラストシーンにおける、ほんの1ワード。その単語により、それまでの90分余りの中で残った謎、違和感のいくつもがバババっと解ける。すさまじい快感であり、ショックである。

そしてここからが本題。よそではあえて言わなかった(言えなかった)ことを書く。じつは本作は一見ただの、テクニカルなスリラーのように見えるが、その本質はとてつもなく骨太な反戦映画になっている。

劇中、主人公が「ある人物」の生存を喜ぶ場面があるが、ここはきわめて象徴的である。その「人物」が、主人公に自分の子供の話をする場面も、本作の裏テーマを語っている重要な部分である。こうした繰り返しで観客へ暗示するのは、要するに米国の底辺労働者(=主人公)と彼らは、同じ利害関係にあるのだという主張である。

おそろしいほどに強烈かつ斬新な映画である。これほどに制限された舞台設定で、おもしろい映画を作る、おもしろい脚本を作るというだけでも大変なことなのに、そこに2010年の今、世界に公開するにふさわしい時代性豊かな社会派のテーマを盛り込んである。こんな離れ業ができる脚本家、映画監督がいったい世界中に何人いるだろう。

これだけやって製作費はおよそ2.5億円。スペイン映画おそるべし、である。

 
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「最終脱獄計画」がそれっぽい話なんですが、収録はされてないのかな。
自分の小さな「箱」から脱出する方法
地中の棺からはたぶん無理。
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