『マチェーテ』65点(100点満点中)
Machete 2010年11月6日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー決定!! 2010年/アメリカ/カラー/1時間45分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
製作:クエンティン・タランティーノ 監督&脚本:ロバート・ロドリゲス 監督:イーサン・マニキス 出演:ダニー・トレホ ジェシカ・アルバ スティーヴン・セガール ロバート・デ・ニーロ リンジー・ローハン ミシェル・ロドリゲス ドン・ジョンソン

≪顔面のインパクトは超ド級≫

クエンティン・タランティーノとロバート・ロドリゲスがB級映画への愛をこめた「グラインドハウス」(07年、米)の中には、受け狙いのニセ予告編が挿入されていた。ところがその予告編がいかにも面白そうだったのと、ロドリゲスの従兄弟で主演のダニー・トレホが、どうしてもアレを作ってくれよとうるさかった(?)ため、このたびめでたく本編が作られることになった。文字通り、B級映画の中のB級映画である。

メキシコの元連邦捜査官マチェーテ(ダニー・トレホ)は、麻薬王トーレス(スティーヴン・セガール)に愛する者を殺され、復讐心に燃えていた。米移民局捜査官(ジェシカ・アルバ)が目を付けた謎のタコス売りの女(ミシェル・ロドリゲス)と交流するうち彼は、別の男からタカ派議員(ロバート・デ・ニーロ)の暗殺を依頼されるのだが……。

あの予告編を見た方は、その中のシーンが続々と再現されるのでおお、と驚き&笑えることだろう。おまけに当時は想像できなかったほどの豪華キャストが集まり、B級映画などと称しては申し訳ないほどのゴージャスな競演を味わえる。

ダニー・トレホはこの手のおふざけ映画?には常連の顔だが、満を持して愛するマチェーテのキャラクターを演じることで、かつてないほどに溌剌として見える。顔面アップのインパクトは絶大で、その肌の質感はまるで爬虫類。腕っ節の強い寡黙なオヤジ、といった雰囲気で、美女にもモテモテ(の設定)だ。とはいえ、ラブシーンのお相手を演じる女優たちの表情に、隠し切れぬ固さが見え隠れするあたりは苦笑もの。嫌がってないか君たち。

ラブシーンといえば、ジェシカ・アルバ、ミシェル・ロドリゲス、リンジー・ローハンの3大スターが、そろってセクシーなシーンに挑戦しているのも驚かされる。

特にジェシカとリンジーは、惜しげもなく全裸をさらしており衝撃的。ジェシカ・アルバはこれまで絶対に映画では脱がないと宣言していることで有名な女優であるから、ファンは必見であろう。各批評家たちも、間違ってもあれはCGだなどと、無粋なネタばらしをしてはいけない。

リンジー・ローハンも、ダニー・トレホ同様、刑務所で鍛えた見事な肉体美を披露。後半の意外な(というよりゴシップネタを逆手に取った悪趣味な)コスプレ姿も楽しませてくれる。

観客の期待通り、いきすぎた残酷シーンも次々と出てきて、ブラックな笑いを振りまく。ただ、個人的にはまだまだ物足りない。突き抜けぶりが足りてないように思う。もう少しやりすぎ感を強調して笑わせてほしいところだ。

悪役は日本でもおなじみスティーヴン・セガールだが、悪い意味でありきたりなキャラクターな上、彼の主演映画ではまず見られない展開をさせるのはどうかと思う。ちょいと「B級映画への愛」が足りてないのではないか?

ダニー・トレホが迫力満点な顔つきとはいえ、巨体で超人オーラ満点のセガールと並ぶと貧弱に見えてしまうのもきつい。

全体的に、周りの役者たちが必死に盛り立てているのがわかるものの、主演がややスター性不足でキワモノから抜け出せていないような印象を受ける。

タランティーノ&ロドリゲス映画として、それなりにノー天気に楽しめる作品ではあるが、もうひと頑張りほしかったな、という気がする。



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