『SP 野望篇』55点(100点満点中)
2010年10月30日公開 全国東宝系 2010年/日本/カラー/98分/配給:東宝
原案・脚本:金城一紀 監督:波多野貴文 製作:亀山千広 岡田准一 真木よう子 香川照之 松尾諭

≪ディテールの甘さで萎える≫

ハリウッドスタイルの撮影方法を導入し、脚本や役者の役作りに時間をかけるなど、邦画にしてはなかなかの意欲作『SP 野望篇』は、狙いはいい線いっているのに細部の甘さが目につく惜しい作品であった。

過去のトラウマにより危険に対する同調能力を得たセキュリティポリス(SP)の井上薫(岡田准一)。彼ら警視庁警備部警護課第四係は、六本木ヒルズのイベントに出席する国土交通大臣の行動を見守っていた。そんなとき、猛烈な悪意とテロリストの存在を察知した井上は、持ち前の行動力とチームワークで犯行阻止にいち早く動き、同時に犯人の追跡を開始した。

この冒頭から、本映画最大の売りである激しい肉体アクションが繰り広げられる。プレス資料にはフリー・ランニングとあるがこれは誤りで、岡田准一がやっているのはパルクールだ。ちなみにフリーランニングとは宙返りをわざと加えたりして魅せる移動技術のことで、パルクール(純粋な高効率移動技術)の中の一種。

そんな技術を使い、人でごった返す都心の町中を車の屋根やら歩道橋やらをピョン吉のように身軽に駆け抜ける。

このドラマの役に対する数年がかりの肉体づくりの成果で、彼の動きは軽快そのもの。走行フォームも綺麗だ。パルクールのテクニック自体は基本的なものばかりで高度な動きは見られないものの、カメラワークと編集が頑張っているので、素人目には十分楽しめるだろう。

その岡田准一に代表されるように、役者はよくがんばっていて、いい雰囲気を作り上げている。ドラマの映画化としては文句なし。

脚本面は、完全にドラマ版の続編・完結編にあたるものなので初見の人には敷居が高い(映画版は二部作予定)。とくに、主人公の危機察知能力の頻度と精度がぐんぐん上がっていくあたりは、本来ならいよいよ全ストーリーの終わりが近いと感じさせる要素だが、映画から見る人には逆に興ざめの原因となる。確かに、超能力で危機を避ける展開が何度も繰り返されれば、ただの万能くんの無敵快進撃だと思われてしまう。

また、ハリウッドのVFXスタッフを招聘して、見た目のスケール感を出そうと努力した跡がうかがえるが、それでも細部にほころびがみられる。たとえば人体を貫通した矢が前と背中でズレていたり(いや、貫通の衝撃で曲がったと解釈すればいいのかもしれないが……)、襲撃者がわざわざ七福神のマヌケなお面をかぶっていたり。あんなものは誰が見ても視界を悪くするだけであり、本気で勝つ気があるとは思えない。

あるいは警護官らが、常時スーツの第一ボタンを外しているのも気になる。日常的には閉じ、任務や局面に応じて外す。すなわち彼らがジャケットのボタンを外している状況では緊張感が走る。そういう演出を取り入れてこそのリアリティであろうと思う。

ほかにも突っ込みどころは多数。ナイフ男に襲われたSPが、なぜか銃を使わず正々堂々と格闘技で勝負する。お前はサムライか。

こうしたディテールの甘さが、せっかくの本格アクションドラマのテンションを下げる。お気楽にみるテレビならともかく、映画ではこういうミスは非常に目立つ。惜しいところだ。

危機が起きなければ改革は起きない。それは日本に限らず世界のどこでも同じだ。そうした思想のもとに、黒幕たちが動き出す本作のストーリーは、映画にするに値する大事なテーマだと思う。一癖も二癖もある与党幹事長など、どこかの現実をほうふつとさせる政治家たちの姿も面白い。

だから後編はどうか細部に磨きをかけて、現代日本人を目覚めさせるような骨太な主張を、岡田准一らのキレ味するどいアクションとともに描いてほしい。あと、真木よう子の胸がゆれる演出もできればよろしくお願いしたい。



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