『約束の葡萄畑 あるワイン醸造家の物語』60点(100点満点中)
The Vintner's Luck 2010年10月23日、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー! 2009年/フランス・ニュージーランド/シネスコ/カラー/ドルビーSRD/126分/PG-12 配給:東北新社
監督:ニキ・カーロ 原作:エリザベス・ノックス「The Vintner's Luck」 脚本:ニキ・カーロ、ジョーン・シェッケル 出演:ジェレミー・レニエ、ギャスパー・ウリエル、ヴェラ・ファーミガ、ケイシャ・キャッスル=ヒューズ
≪人生とはワインづくりのごときもの≫
この映画の監督ニキ・カーロは、「映画作りはワイン造りと似ている」と言ったが、人生そのものも似ているよ、とのテーマも同時に込めたのだろう。とっぴでばかげた設定だととられかねない難しい原作を、重厚な人間ドラマに仕立てたその手腕は健在であった。
1808年、フランスのブルゴーニュ地方。若きブドウ農家ソブラン(ジェレミー・レニエ)は、いつか自分の手で最高のワインをつくろうと考えている野心家。そんな彼の前に、翼をもった天使ザス(ギャスパー・ウリエル)が現れ、的確なアドバイスを送る。ソブランは彼の助言どおり、思い人のセレスト(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)に告白し、みごと妻とする。それ以来、ザスと手を取り合ってめきめきと醸造技術を磨いていくソブランだったが……。
ワインづくりにかけた醸造家の一生を描くドラマかと思ったら、いきなり生々しい半裸の天使が出てくるので観客は腰を抜かす。CGではなくあえて実体のある巨大な羽をくっつけたこの美男子は、まずは土を味わえといきなりワイン造りのヒントを教える。鉱物だのミネラルだのが場所によって微妙に含有量が違うからと熱く語る。まるでワイン博士である。
おまけに、かわいいあの子にはさっさと告白して結婚してやっちまえと、聞いてもいないようなプライベートにまで干渉する。
そんな婚活天使ザスは、別れ際、これからは死ぬまで毎年同じ日にここで会おうねと一方的に宣言。強引なイケメンの前に主人公も思わずYES。ここから、天使とワイン醸造家の奇妙な友情が始まる。
しかしながらこの天使は案外無責任で、神に愛されたと喜ぶ主人公の人生のピンチを救おうともしない。そんな放置プレイにキレた主人公に放つ一言がなかなか含みがあって面白い。
フランス、とくにブルゴーニュのワインは19世紀に病害虫フィロキセアにやられ、昔からあった種類の樹は全滅した。現在あるのは外国から病気に強い樹を輸入して、それに接ぎ木して作った葡萄によるワイン。オリジナルのヨーロッパ品種は南米のチリなど、フィロキセアの被害にあわなかった国に残るのみだ。
そんな有名な事件をモチーフにしたと思しきエピソードが本作にも登場する。そんな不運に人はどう反応し、対処するのか。
このように、ブドウ作りも一筋縄ではいかず、主人公も初年度のビギナーズラック的な名ワインをその後なかなか越えられずに苦労する。同時に彼の人生も、同じように浮き沈みする。ワインと人生。並行してなぞらせるように描きつつ、主人公の内面の具現化のごとき天使がそのアクセントとして一年ごとに登場する展開だ。
こうした、言ってみれば退屈なドラマを、なぜか面白く感じさせるところにこの監督の妙技がある。何気ない風景ひとつみても、映像に力がある。今回は出世作「クジラの島の少女」で主演したケイシャ・キャッスル=ヒューズを再びヒロインに迎え、同じくニュージーランドの作家のベストセラーの映画化に対し、万全の態勢で挑む。
ケイシャ・キャッスル=ヒューズは「クジラの島の少女」では11歳だったが、その後17歳で出産。本作ではそのかわいい長女も実子ニコレット役で登場する。ケイシャ・キャッスル=ヒューズ自身も、最初にオファーがきたとき真っ先に心配したというヌードシーンも堂々とこなし、相変わらずの存在感を示している。まだ当時19歳だったというのに、見事な脱ぎっぷりである。「クジラ〜」の時と比較してどうこうなどという、よこしまな楽しみ方をしては決してならない。
ワインを飲むシーンはたくさんあるが、酔っぱらう場面はない。酔う以外の魅力を描くことに注力したこのワイン映画。主人公渾身のワインはいったいどんな場面で、どんな味にできあがるのか。
映画館で飲むわけにはいかないが、華やかにして深みもあるブルゴーニュの赤でも楽しみながら味わいたい、良質な人間ドラマといえる。