『死刑台のエレベーター』40点(100点満点中)
2010年10月9日(土)より全国ロードショー 2010年/日本/カラー/1時間51分/6巻/3021m/ビスタサイズ/ドルビーSRD 配給:角川映画
監督: 緒方明 脚本: 木田薫子 出演:吉瀬美智子 阿部寛 玉山鉄二 北川景子 平泉成

≪雰囲気はいいものがあるが≫

「死刑台のエレベーター」のオリジナルは57年の同名作品。フランス映画のサスペンスだが、これだけ元ネタが古いと、普通はリメイクも簡単にはいかない。だいたい新築マンションだって50年もたったら建て替えだし、憧れの茶髪ギャル美少女だってお婆さんである。そう考えれば、ほとんど変わらぬストーリーで再映画化できたのは、それだけでも大変な事かもしれない。

大企業グループの会長夫人(吉瀬美智子)は、グループ傘下の医師(阿部寛)と愛人関係にある。だが思うように会うこともできぬ彼女は、邪魔な夫の殺害を決意。隙のない殺害計画を立てるが、実行犯の医師が現場から去ろうと乗ったエレベーターが停止、閉じ込められてしまう。連絡が取れず焦る夫人は、やがて不安と疑心暗鬼がつのり……。

舞台を現代日本に移しても、物語の骨格は変わらず成立するのだから凄い。日本でエレベーターに閉じ込められる事故は稀有だが、私も一度経験があるくらいなので皆無とは言えない。だが、人殺しの帰り道でそんな不運に見舞われたら、そりゃシャレにならない。

必死に脱出を試みようとする男、携帯の通じない彼の行方を探し回る女。そんな二人を尻目に、別のカップルが別の事件を巻き起こす。そんな犯罪の波及効果に観客は翻弄されていく展開。

オリジナルのルイ・マル監督のご子息が協力し、それを受けたスタッフもきっと原版のムードを忠実に再現しようと苦心したのだろう。舞台となる古びた建物も見事な建築だし、それなりにいい雰囲気は出している。

しかしながら、いかにもお芝居でございといった古典的な演技は、サスペンス映画にスリルを求める人には物足りない。殺人まで決意する男女の情念のようなものも、美しい画面構成と様式美に隠れて見えてこない。優等生が古典を器用に再現したような、おとなしい映画になっている。

だが個人的には、オリジナルは偉大だがそれを超えてやろうという野心をもっと感じたい。格調は高いが、原版を知らない2010年のお客さんを楽しませ、怖がらせる事が出来るかどうかは微妙なところ。その意味では、お客さんを選ぶ映画といえる。

50年間容姿の衰えない茶髪ギャル美少女がいたとしても、流行に合わせた服を着せてやる必要はある。映像や音楽の見た目だけではなく、強力な魅力をもつ原作のストーリーを、現代的に生まれ変わらせるアイデアを絞ってほしかったというのが唯一の不満だ。



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