『超強台風』65点(100点満点中)
超強台風 2010年9月25日(土)より、新宿ミラノ他 全国順次ロードショー決定!! 2008年/中国/94分/字幕:東野聡/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル 配給:ブロードメディア・スタジオ
監督・製作:フォン・シャオニン 出演:ウー・ガン ソン・シャオイン リウ・シャオウェイ

≪大真面目だけど大爆笑、中国産ディザスタームービー≫

「THE LAST MESSAGE 海猿」に続き、「TSUNAMI-ツナミ-」とこの『超強台風』が公開されるが、日中韓3大災害ムービーの中で、ナンバーワンなのがこの『超強台風』である。何が一位かというと、言うまでもなく「笑える度」である。

観測史上最大級の台風が、中国沿岸部のある都市に向かっていた。どうせ進路がずれるだろうと、経済的損害が予想される住民避難をしぶる連中に対し、市長(ウー・ガン)の方針は違っていた。かつての恩師で気象専門家(ソン・シャオイン)の意見に力を得て、彼は堂々と経済より住民の命を最優先する指示を出すのだった。

この映画は、スーパー市長が八面六臂の活躍をする地方自治体ムービーである。その活躍たるや尋常ではなく、どれほどの経済的な損害が出ようともたった一人の人民の命さえ見捨てない。誰もがあきらめるような状況でも、救助隊よりも早く飛び込む。自分の体を張って助けに行き、また助けてしまうスーパーマンぶりだ。たとえ相手が犯罪者であろうとも差別せず、トップみずから命がけで助けに行くのである。

一介の地方自治体首長がなんでそんなにスゲーんだよと、そのうち感動よりも爆笑が先に来るようになるが、するとそんな観客の疑問に答えるように「実は私はもと特殊部隊にいた」などと、予想もしない説明的セリフを市長自ら発する始末。そのタイミングの良さとあまりに都合の良すぎる設定が、さらなる笑いを呼ぶ。

そんな手厚い市長の善行に「なぜなんですか、私たちはただの漁師なのに」と庶民が問うと、市長は答える。「きみたち全員、私の家族だ。皆が命を失うことがあれば私は市長失格だ」。中国共産党に見せてやりたい感動シーンである。

この主人公ときたら、たとえ法律違反であろうとも「住民の命を守るためなら堂々と破る」と断言。感化されたか、軍人たちも臨機応変にバックアップする。人民一人の命がとにかく重く、「我々は一人の命とてゆるがせはしない」と大げさな音楽とともに政治家が語るシーンでは、ここはいったいどこの中国だよとの脳内ツッコミを禁じ得ない。

嵐の中、市長を先頭に漁師たちがこちらに向かって走りくるシーンは思いっきりスローモーションでヒロイックに描かれる。その姿は、ほとんど戦隊ものヒーローと変わらない。地方政府、恰好よすぎである。私はここで我慢の限界をついに過ぎ、声を出して笑ってしまった。

政府や行政がこんなにえらい人たちばかりだったら、四川大地震もあんな被害は出てなかったに違いない。災害続きで国民の不満がくすぶる中、わが政府はこんなに頑張ってますよというプロパガンダなのだろうが、しかし現実は違うとわかっている日本人観客としては、真面目に受け取ることはできない。

ディザスタームービーとしての見せ場は、ミニチュアワークや実写の台風、ワイヤーワークを組み合わせた実感重視の演出。なにしろ予算が7億円しかないのでCG使用は限定的だが、そうしたチープ感が妙に作風にあっている。熱いを通り越して暑苦しいこのドラマにぴったりといえる。

編集は荒っぽく、せっかくいい見せ場になりそうなのに撮影が面倒くさそうなシーンはバッサリカット。次のショットではすでに問題解決というような、強引すぎる流れに何度も唖然とさせられる。画面を右から左に横切るだけという、あまりに投げやりな装甲車の強行突破シーンなども、見逃せない見せ場の一つである。

そもそも災害映画なのに、なぜタンクローリーの大爆発や人食いサメに襲われる展開になるのか。私にはさっぱりわからない。あらゆる意味で予想を上回る斜め上っぷりで、B級カルト好きにはこれ以上のオカズはない。

間違ってもハリウッド製のゴージャスなパニック大作を期待してはいけないが、日韓の両大作と合わせて3本目として見るやり方を私は否定しない。むしろ見比べることで各国の事情、国民性がよくわかり、大変勉強になるだろう。



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