『十三人の刺客』70点(100点満点中)
2010年9月25日公開 全国東宝系 2010年/日本・アメリカ/カラー/2時間21分/シネスコサイズ/ドルビーデジタル/PG12指定(小学生には助言・指導が必要) 配給:東宝
監督:三池崇史 原作:池宮彰一郎 脚本:天願大介 出演:役所広司 山田孝之 伊勢谷友介 沢村一樹 古田新太 高岡蒼甫

≪ヤンキー時代劇≫

オリジナルの『十三人の刺客』は、世間の流行が時代劇から東映任侠映画に移り変わるころ、1963年に公開された。リアリティ重視の演出に、30分間にも及ぶ集団白兵戦闘の見せ場が印象的な本格時代劇作品である。

それを、バイオレンス描写に定評がある三池崇史監督(「ヤッターマン」(2008)、「ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲」(2010))がリメイクする。オリジナルの演出はどう考えてもこの監督のカラーとは違う。はたしてどうなるのか、映画ファンは不安と期待を胸に見つめていたに違いない。

ときは江戸時代末期。残虐な性格で横暴の限りを尽くす明石藩主・松平斉韶(稲垣吾郎)は、しかし将軍の弟という立場から幕府でさえ手が出せぬ存在だった。そこで老中・土井利位は、御目付・島田新左衛門(役所広司)に暗殺部隊の編成を密かに指示。島田はさっそく腕利きの浪人や武士ら精鋭13人を集め、標的一行を待伏せるが……。

結論からいうと、新『十三人の刺客』は三池監督らしい、シュールなギャグや容赦ない暴力演出に満ちた、娯楽一本やりの男性向けかつ現代的な作品に仕上がっていた。

この物語の核は、まず権力をかさにやりたい放題の大ボスがいるが、そんなダメボスでもボスである以上、命がけで仕え守ろうとする部下たちの存在である。暗殺部隊側(主人公側)の13人はもちろん、人民と世の安定を守るために命を捨てる正義の味方なのだが、彼らが戦う相手とて、決して悪者ではないというところがポイントだ。

精鋭13人と、防衛側の凄腕武士が、全力を出し合い戦う。ガチンコのケンカをする。彼らが守るのがダメ藩主だからこそ、両者の武士道精神が輝き、ドラマが心に響く。このあたりはリメイク版でもよく踏襲されている。

暗殺側は13人もいるので、末端のキャラクターまで十分に描けていないのが残念だが、決死隊としてのヒロイックな魅力は十分。野生児の伊勢谷友介、一番の剣技を誇る孤高の浪人・伊原剛志、人間味あふれるリーダーの役所広司とその甥で若いくせに頼もしい山田孝之。このあたりの登場人物はとくに立っておりファン歓喜。稲垣吾郎のイヤな奴っぷりも板についている。ギャグ担当・伊勢谷のはじけっぷりはとくにいいアクセントになっている。

ただ彼らの立ち回りは時代劇というより「クローズZERO」のようで、江戸時代を舞台にヤンキー同士がケンカをしているような趣である。ど派手な大仕掛けや、13人vs.300人といった常軌を逸した大立ち回り、抒情的すぎる各人の最期などがそう感じさせる。

名セリフの数々は心に残るし、松本幸四郎のような本物の役者による男の意地の表現など、そこを見るだけで金を払ってもいいと思える演技上の見せ場も数多い。下町の風呂屋のような、ひたすら熱い男のドラマを堪能できる。「俺の背後に抜けた者を斬れ。一人残らずだ」「拙者、この太平の世に侍として、よき死に場所を探し続けておりました」等々、かっこいいことを恰好いい男どもがいうわけだ。これはたまらない。

時代劇の様式美にこだわらぬ人にとっては、画面にあふれる大和魂にこちらの心まで燃え上がる魅力的な一本だ。この秋有数の、おすすめアクションといえる。



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