『TSUNAMI-ツナミ-』70点(100点満点中)
海雲台 Haeundae 2010年9月25(土)新宿バルト9ほか全国"メガ"ロードショー 2009年/韓国映画/107分/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD 配給:CJ Entertainment Japan
監督:ユン・ジェギュン CG・視覚効果:ハンス・ウーリック 撮影監督:キム・ヨンホ 出演:ソル・ギョング ハ・ジウォン パク・ジュンフン オム・ジョンファ イ・ミンギ

≪ラブコメ&パニック映画≫

韓国のいいところは、遠慮のないところである。

などというと、前田は韓国嫌いだとかまたあらぬ誤解を受けそうだがとんでもない。整形だろうが豊胸だろうが脱毛だろうが、男子にとって喜ばしい努力をしてくれる女子を私は高く評価する。よもや嫌いになろうはずがない。

いや、そもそも今回の記事に女性うんぬんは関係ない。のっけから話がずれてややこしいので元に戻すが、『TSUNAMI-ツナミ-』は冒頭に書いた「誰にも遠慮せず好きなものを作る」韓国人気質が、良いほうに影響した良作である。

韓国有数の海水浴場で小さな食堂を経営する幼馴染のヨニ(ソル・ギョング)に、いまだ思いを伝えられないマンシク(ハ・ジウォン)。今日こそ告白をと考えるマンシクをしり目に、目の前の東海(別名:日本海)の海底は不気味にうごめいているのだった。

ニュースで開口一番「東海で地震が起きました」とニュースキャスターがしゃべる。日本で公開するなら、こんなシーンを入れるわけがない──。そういうコトナカレ発想の日本人とは対極にある価値観を、この映画では味わうことができる。まさにケンカ国家。これぞ異文化体験である。

その東海(別名:日本海)で、ある大災害が起き、やがて映画の後半にはメガ津波が朝鮮半島を襲う。日本列島が邪魔をして(というか盾になって)津波など起きる可能性がほとんどない韓国人が、なんとしても津波大災害ムービーを作りたかった、その苦心のアイデアを見ることができる。

メガ津波の発生原因には、当然のように韓国の元彼こと日本が深くかかわっており、それを見た日本人観客はあいた口がふさがるまい。いったい脳みそのどこを突っつけば、こんな無茶苦茶な設定が思いつくのかと多大な衝撃を受ける。私はこのシーンから先、心地よい笑いを止めることができなかった。

これを見ると、日本海に日韓共同で天然エネルギー採掘施設を建設して仲良く運用するなどという映画を作ってしまった「海猿」のマヌケさが微笑ましく思えてくる。かりにも日韓友好的なストーリーをひねり出し、韓国の海上保安庁の隊員にまで登場の場を与えた日本映画。かたや、東海(別名:日本海)よばわりの妄想劇を世界中に発信する韓国映画。じつに対照的ではあるまいか。

どちらが上とはいわないが、やはり言いたいこと、やりたいことをやっている映画のほうが、見ていて痛快なのは確かであろう。

『TSUNAMI-ツナミ-』の面白いところは、群像劇ではあるものの、出てくる連中がヒーローとは程遠い、妙に泥臭い庶民ばかりということ。ひきこもりの中年男であるとか、逆ナンに命を懸けるイケメン好きの女の子とか、どいつもこいつもダメ人間ばかり。

そんなデコボコな連中が、ラブコメよろしくマヌケなやり取りを繰り広げる。ドタバタコメディーをやらせたらアジア一といわれる韓流の面目躍如といったところ。おぼれている女の子を救助しようとしたらジタバタとしがみつくので、ぶん殴って気絶させて助けるといった、美人に厳しい演出も笑いを呼ぶ。

ユン・ジェギュン監督お気に入りのハ・ジウォンに加え、クールな奥さん役のオム・ジョンファ、イケメンに弱い都会っ子カン・イェウォンの3人ヒロイン体制も盤石。「オアシス」のソル・ギョングなど、実力派の男優陣にもスキはない。

アジア的な、ねっとりこってりなディザスター映画という、めったに見られない怪作であるから、余裕のある方は映画館で存分に味わってほしいと思う。笑いと感動と驚きの総量は、ハリウッドの一流作品にも引けを取らない。とくに笑い。オススメの1本である。



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