『nude』60点(100点満点中)
nude 2010年9月18日、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー 2010年/カラー/ステレオ/HD/アメリカンビスタ/106分 配給:アルシネテラン、ハピネット
監督:小沼雄一 原作:みひろ 脚本:石川美香穂、小沼雄一 出演:渡辺奈緒子 佐津川愛美 永山たかし 山本浩司

≪女性を誘えるAVドラマ≫

アダルトビデオには、男女とも興味を持っている。もっとも、その方向には多少の違いがある。男性は出来上がった作品をみればそれで終わりだが、女性はむしろ「なんであんなコトをカメラの前で出来ちゃうんだろう」といった疑問から、女優さんの心境や出演に至った経緯、境遇といった内面の部分にまで興味を持つのではなかろうか。

つまり、女性たちは男どものように卑猥なエロ心だけでAVを見ているのではない。むろん、単なる技術的探究心およびエロ心のみで鑑賞する女性がいるならば、今後の研究のため携帯番号と暇な曜日を添えて当方までお知らせ頂きたい。

ともあれ、引退したトップAV女優みひろの自伝的小説を映画化した『nude』のプレス試写会に、タレントを中心に女性ばかりが押し掛けたというのもうなづける話である。私は見る前からこれは女性のための女性映画だと認識していたが、どうやら世間でもそのように正しく認識されそうだ。

新潟の高校を卒業した平凡な少女ひろみ(渡辺奈緒子)は、芸能界への憧れを胸に上京する。もっとも、何のつてもない彼女は、当初はごく普通の仕事に就き堅実な生活を始める。しかし、とある芸能事務所にスカウトされた瞬間から、ひろみは自分の運命が動き始めたことを感じ取る。

もっとも、彼女をスカウトした事務所が持ってきたのはヌードモデルのお仕事。まあ、世の中そんなモンである。いきなりアイドルになるチャンスもなくはないが、それ以上に需要があるのは下半身のアイドルということだ。

ここで普通の女の子なら躊躇したり、「一度でも裸の仕事をやったらまともな芸能人にはなれないかも」との計算が働くが、ヒロインは違った。「これを切っ掛けに有名になれるかも」と考えた。

男から見れば典型的なカモ的発想で、愚かとしか言いようがないが、結果として彼女は成功した。このドラマの弱いところは、明らかにネジのとんだおかしな判断をヒロインがしているのにその事に目を向けず(というか、脚本家や監督はそのことを理解しているのか?)、結果としてこのヒロインの成功の価値が十分描けていない点。

こんなにおかしな事をやっていても成功するヤツは成功する。そこの見解を描かなければ、みひろストーリーの意義も見えてこないと私は思う。主人公がのし上がっていったのは、おそらく相当ずば抜けた才能や運、努力があったに違いないのだ。かわいい顔に長めの髪に微乳というだけでは、私は受け入れるものの全国民的に広く受容されるみひろレベルにまでは達しない。

その点を割愛することで主人公をあたかも普通の人のように描き、女性客の共感を集めようとするのはどうもアンフェアな気がして釈然としない。

ところで2週前には『名前のない女たち』という、同じアダルトビデオの、ただし企画女優の世界を描いたドラマ映画が公開された。私は『nude』から先に見たのだが、両者の「AV撮影現場」のあまりの違いには驚かされた。

なんといっても、『nude』はグラビアモデルでそれなりに名をあげたタレントが、やがてついにAVに出るという展開。現場での扱いは特A級というわけだ。それが、『名前のない女たち』におけるぞんざいな企画女優の扱いをみると実感できる。AVに興味のある人は、この両者を合わせて鑑賞することをすすめたい。いろいろと、業界の空気のようなものが見えてきて面白いはずだ。

みひろ役の渡辺奈緒子は、最初の絡みが下着姿というヘタレな演出で、これはだめかと思わせながら、ちゃんと終盤ではオール公開という潔さ。引っ張りまくりのじらしテクだったとは、監督も心憎いことをやる。

全体的に綺麗な映像で、題材の割には女性を引かせない配慮に満ちているが、ちゃんと男性の観客をも満足させている。ここは高く評価したいポイントだ。ちなみに専門家の私の目から見ても、渡辺奈緒子の微乳は、オリジナルみひろに負けぬほどの味わいと興奮をもたらしてくれる。

まとめとして、女性を誘えるAV映画ということで、それなりに存在価値のある一本といえるだろう。



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