『THE LAST MESSAGE 海猿』75点(100点満点中)
2010年9月18日(土) 「3D」全国東宝系ロードショー(2D同時公開) 2010年/日本/カラー/2時間9分/配給:東宝
監督:羽住英一郎(ROBOT) 脚本:福田靖 出演:伊藤英明 加藤あい 佐藤隆太 加藤雅也 吹石一恵 三浦翔平
≪黒幕はCIA?≫
『THE LAST MESSAGE 海猿』をみると、日本人も日本映画界も相変らず脳みその中は平和だなと感心する。
玄界灘に浮かぶ大規模天然ガスプラント「レガリア」で火災事故が発生した。海上保安庁の潜水士、仙崎(伊藤英明)は、後輩の服部(三浦翔平)ら仲間と共にこの困難な現場での救助作業を進めていた。ところが巨大台風が接近、ヘリさえ飛べぬ悪天候となり、彼らは数名の生存者とともにレガリアに閉じ込められてしまう。
レガリアの造形は映画にふさわしい大迫力で、そこでの救助作業はテレビドラマではまずできない大スペクタクルだ。巨大なセットに大量の水を流す撮影は、さぞ(予算もふくめて)苦労の多い現場だったろうと想像がつく。こうしたスケール感のある大作が当たり前のように公開される邦画隆盛時代が到来したことを、まずは喜びたい。
遠景等で使われるCGの出来もいい上、前述したセット内撮影もよくできている。さらに伊藤英明ら潜水士キャストは海上保安庁で本物の訓練を受けている。その伊藤英明などは2分間以上も息を止めていられるほどの本格的な役作りをしたという。ためしに私もやってみたが、あやうく天国のポチと再会するところだった。くれぐれもマネしないほうが良い。
とどめは海保全面協力による本物の巡視船やヘリコプターの登場。それらが、手放しでほめてやりたいほどの見事なアンサンブルを奏で、「本物」感にあふれた映像を作り上げている。
ただ、問題は「レガリア」の設定である。
この施設は、日韓共同の国家プロジェクトとしてロシアの技術供与を得て建設され、両国間に位置する玄界灘に浮かんでいる。
つまり、日韓露のエネルギー採掘施設が謎の大炎上というわけだ。てっきり中国かアメリカが工作員でも送り込んだのかと思ったが、そんな落ちはない。そもそも竹島を望む玄界灘で、日韓が共同で天然ガスプラントを建設する可能性などあり得るのか。建設どころか日本海の呼び方ひとつで紛糾しそうな気がするのだが……。
こうした設定を、シニカルな視点ゼロで採用してしまうあたりに「平和」を感じてしまう。同時に、せっかくのこうしたスペクタクル映画が総じて子供向きで、大人にすすめ難いのも残念である。見た目の本物感に、中身が追い付いていない。
なお本作は3D版も上映される。今回は伊藤英明の見事な肉体美が飛び出すわけだから、女性ファンも男性ファンもこぞって映画館に出かけていただきたい。
それにしても、相変らず「最期、最期」と連呼する宣伝にはうんざりする。もっとも、じっさいに毎度おなじみ、主人公が死ぬかも死ぬかものワンアイデアで盛り上げているのは確かだ。それ以外にスリルを生み出すテクニックを持ち合わせていないかのように、死ぬ死ぬ詐欺を続ける一途さには頭が下がる。
それで観客も喜ぶと思っているから、監督もクライマックスに加藤あい関連のシークエンスをあんなに長く挿入するのだ。だが、そういう露骨なお涙ちょうだいは興ざめのもとだから、次はもう少しひねっていただけたらと思う。それが、高いポテンシャルを持つ海猿のコンテンツとしての質を高める道ではないかと思うのである。