『ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡』60点(100点満点中)
Benda Bilili! 2010年9月11日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー! 2010年/コンゴ・フランス/カラー/85分/配給:ムヴィオラ、プランクトン
監督:フローラン・デュラテュイエ、ルノー・バレ

≪ド貧乏な上に障がい者、だが明るい≫

小児麻痺というと、志半ばで引退した往年の野球選手ルー・ゲーリッグを真っ先に思い出す(実際は筋萎縮性側索硬化症だった)。難病に侵され満足に体を動かす事もできなかったのに「私は地上で最も幸せな男です」と語った引退スピーチ。直後に駆け寄ってきたベーブ・ルースと抱き合う様子が当時のフィルムに残っているが、涙なしでは見られない大リーグ史上有数の感動的なシーンである。

ポリオ(小児麻痺)ワクチンは、あらゆる予防接種の中でもトップクラスの安全性・効果を誇るため、先進国ではその患者はもうほとんどいない。だが、コンゴのような途上国には、体の自由と人生を奪う恐ろしい難病として、いまだに恐れられている。

スタッフ・ベンダ・ビリリは、そんなポリオ患者やストリート・チルドレンで構成された音楽バンド。ただでさえド貧乏なコンゴ民主共和国(旧ザイール)の、しかも障がい者とホームレスがメンバーという、他に類を見ないハンディキャップ集団だ。

『ベンダ・ビリリ!〜もう一つのキンシャサの奇跡』は、そんな彼らを偶然みつけたフランスの映像作家が、足掛け5年にわたり取材したドキュメンタリー。その日常から練習風景、そして彼らと一緒になってプロデュースに四苦八苦する様子が、アフリカ特有の底抜けの明るさとともに描かれる。

釜ヶ崎も真っ青の貧しい暮らしの中、日本なら粗大ごみ置き場にもないようなオンボロ楽器や、そもそも楽器なのかガラクタなのかよくわからないものを使って、彼らは独特の民族的なリズムを奏でる。それがまた独特のグルーヴ感があってなかなかいけるのである。

ナレーションは「不屈の陽気さ」「世界が知らない天才」と彼らを称するが、まったくその通り。こんなに何もないところで、おそらく何の教育も受けていないのに、よくぞこんな美しい音楽を生み出したものだと驚かされる。

とくにユニークなのが、彼らが歌うのは常に身の回り50pとでもいうべき、自らの現実であること。むろん、その現実は、「俺は丈夫に生まれたが、ポリオになっちまった」とか「母たちよ、ワクチンを赤ん坊に打ってくれ」とか、シャレにならない歌詞ばかり。尾崎豊もびっくりの説得力で、こんな歌詞を、車椅子から降りることもできないポリオ患者自らが歌うんだからたまらない。全くその通りでございますと頭を下げるほかはない。

「俺は現実そのものをうたってる」と彼らは語る。夢ではなく、現実を語る人々。かわいい恋人に会いたい会いたい、早く会いたいと、そんなに会いたいならさっさと会いに行けといいたくなるような甘ったるい歌詞を歌う日本の歌手が聞いたら、赤面してしまいそうな迫力である。

それをうまいことアレンジし、商品レベルに高めていく過程がまた楽しい。レコーディングも粗末な施設だったり、ときにはとんでもないところで録音したりしているようだが、中身が本物だからまるで他の「商品」とそん色ない。

だが、そんな才能があっても、簡単に成功できるほど人生は甘くない。まあ、彼らほど甘くない人生を生きてる連中もいないわけだが、それでもさらにひどい運命が襲い掛かる。

世界の片隅では、こんなに元気な奴らが、ド貧乏なくせに頑張っている。貧乏ならば日本有数と自負する私とて、彼らの奮戦ぶりには大いに励まされた。スタッフ・ベンダ・ビリリは、まさに貧乏界のマエストロ。苦しんでいる人々を励ます頼もしい奴ら。興味ある人は、映画館でその元気を分けてもらうといい。

屈強のコンゴ魂
これがそのCD。元気がでる。
世界最悪の紛争「コンゴ」 (創成社新書)
コンゴってこのイメージしかない……。


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